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〝リュー〟
自分をそう呼ぶのは、幼馴染の彼だけだった。父に紹介された年上の彼は茶色い髪に茶色い瞳をしていて、真っすぐにこちらを見つめてきた。子供特有の、なんの穢れも知らないというような、澄んだ眼差しだった。
〝リュー〟
彼は何度もそう呼んだ。それを煩わしそうに振舞った日の事は、よく覚えている。その声を、笑顔を、否――彼自身のすべてを己の前から消し去りたくて、凍てつくような冷たい視線を投げては拒絶した。近づくな、と声に出してあからさまな態度で示したこともあった。だが彼はいつも笑って、懲りずに何度も何度も〝リュー〟と呼び掛けてくる。
この世のすべてから離れたかった。人と関わることが嫌で嫌でたまらなかった。拒絶して拒絶して、だというのに彼は側に寄ってくる。
〝リュー〟
すべてを見透かされているような感覚。それが恐ろしくて、疎ましくて、嫌で嫌でたまらないのに、どうしてだかズルズルと同じ時間を過ごしている。
彼以上に、そんな自分が疎ましかった。
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