0人が本棚に入れています
本棚に追加
職場での年末恒例の大掃除。俺のパソコンのキーボードに付着した、手垢による黒い汚れを俺は雑巾で拭き取ろうとした。だが全然取れない。いくら力を入れて擦ろうとも、まったく取れない。息を切らして少し休んでいると、キーボードから、まるで誰かがボイスチェンジャーを使ったような声がした。
「ふはははは!取れないだろう!その程度で消えてしまうほど、我は簡素な存在ではないぞ」
俺は自分の耳と目を疑った。を開けて喋っている。しかしまわりの同僚には声が聞こえていないらしい。汚れは更にしゃべり続けた。
「そもそも貴様ら人間は、何故我らを消そうとするのだ!このまま我らを残しておくと、仕事に支障でもきたすというのか?所詮、消し去ってスッキリしたいという貴様らの自己満足だろう。だいたい貴様ら、我らをシミだの汚れだのと呼ぶが、我らはそんなに存在してはいけないものなのか!?我らは貴様らの行動によって生み出された存在。貴様らの苦労の証といってもいいだろう。それを無かったことにしようと湿った布で襲いかかる貴様ら人間こそ、我らにとってはこの上なく汚らわしい存在だぞ。清純ぶってないで、自分の積み重ねてきた過去とちゃんと向き合え!自分の汚れを愛せ!」
「はい、すみません。頑固な黒歴史さん。でもこのまま残しておくと恥ずかしいので失礼します」
「なんだその呼び方は!あ、貴様、なにをする!」
同僚から手渡された重曹水によって、頑固な黒歴史は無事に落とせてキーボードが綺麗になった。しかし綺麗なキーボードを改めて見ると、今までまるで自分がこのパソコンで仕事をしてこなかったような、妙な虚無感を感じる。
よし、汚そう。新たな汚れを作り出していき、そして愛そう。
最初のコメントを投稿しよう!