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磨百瑠はげっそりとしていた。相当虫が嫌らしく、蜂の巣と蜂の死骸が入ったゴミ袋を、腕を伸ばして遠ざけていた。
首もとの狐と頭上の鯉は、食後からずっと喧嘩をしている。
『半分以上喰いやがって!』
『元々俺の獲物だったの。鯉は兎丸に憑いていたじゃないか』
兎丸というのはお父さんの名前である。
『今回は二人で来たのだから半分ずつにすべきだろう!普段から兎杜を独り占めしてるくせに、譲り合いの精神というものが無いのか!お主以外は皆飢えているのだぞ!』
『独り占めじゃなくて兎杜は元々俺のものなの』
狐はふふんと見下したような目をして、わたしの頬に鼻を擦り寄せた。
『性格の悪い狐が!そんなだからお主、他の神使から評判が悪いのだぞ!』
鯉は怒ってピチピチと跳ねていた。
「ねぇ。最後なんか唱えてお札貼ってたけど、あれ何だったの?」
「ああ、これ?」
わたしは胸ポケットから準備してあった呪具のお札を出して見せた。
「負の人外を神使様に差し出す前に一手間加えるの。饗応役っていうのはお世話係だから、食事のお世話もするわけ」
「一手間?」
「美味しく召し上がって貰えるように味を変えるんだよ」
「へえー象形文字?何て書いてあるの」
「醤油」
「……」
磨百瑠は「画期的なお札なんだね」と複雑そうな顔をした。
「美味しくないと神使様も食べたくないし、食べて浄化してもらわないと、街も心もどんどん穢れてしまう。だから私達が必要なんだ」
磨百瑠は暫く考えていたが納得出来たみたいで、うんうんと頷いていた。
「表向きは掃除屋なんだろ?依頼の電話でどうやって負の人外絡みだってわかるの?」
「電話に呪具を仕込んであるの。人外の被害を受けている人からは負のオーラが発生するから、それを感受できるようにしてある」
「すげーハイテクじゃん」と磨百瑠は目を輝かせた。
***
「ありがとうございました。愚痴も聞いて貰って、しっかり駆除もしてもらえて、なんだか気持ちがスッキリしたみたい」
家の中の淀みはすっかり無くなった。徐々に気分も良くなるだろう。
「ええ、もう悪いことは起きませんから、心を穏やかに過ごしてくださいね」
奥さんは目を丸くした。
「あなたにそう言われると本当にそんな気がしてくるわ。不思議なお掃除屋さんね」
キャップを外しガバッと頭を下げる。隣の磨百瑠に真似をしろと目配せをした。磨百瑠も慌てて頭を下げると、店の謳い文句を告げた。
「街も心も浄化する御掃除本舗です。今後ともご贔屓に!」
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