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吉野はまどかのキーボードの伴奏で、持ち歌の得意のバラードを披露して後輩の涙を誘い、有吉は、カバンからCDを取り出し「俺たちのオリジナルを何曲か焼いたから。豪華版。先客で十名様にあげる」と、微笑しながらひらひらとそれを掲げて最後のプロモーションに勤しんだ。
すると、たちまち女子部員が欲しい欲しい!」と黄色い声を上げ、有吉を取り囲む。
まどかがその光景に目を瞬かせていると、みちるは横で「だから言ったじゃない」と囁いた。
そんなに有吉はモテるのかと驚いたが、自分がそれをすでに冷静に見ていることに、まどかは少し驚き、同時に恋も卒業したのだと、改めて感慨に耽ってもいた。
陽が落ちた頃、解散して部員は部室を後にした。
廊下で有吉が、後輩に配ったCDを「記念だ」と、メンバーにも配った。
「金目、これはおまえの。勉強中に聴くなよ」
「なんで? 眠くなるから?」
「いや、楽器やりたくなるだろ」
真面目に言う有吉の瞳が、なんだか切実で、まどかの心がちくっと痛んだ。
「ありがとう。お互い、受験頑張ろうね!」
その痛みを無理矢理消すかの様に笑顔を作る。
そうして有吉と、皆と別れた。
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