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夜の港公園は、初夏独特の生暖かい風が吹いていた。潮の香りを含んだ空気が、ゆるく、肌にまとわりつく。
金目まどかは、手すりにつかまり、潮の香りを思い切り吸い込んだ。
街灯の明かりを反射しているところだけ、波が白く艶を放ち、ぬらりぬらりと動く。黒い波。真っ黒な液体。
手すりがなければ、その境目がわからずにどこまでも吸い込まれていきそうだ。
「おーい、落ちるぞ」
後ろから有吉が声をかける。
「落ちないよ」
そう、答えたまどかの横に立ち、彼はにやりと笑った。
「でも、今日は珍しくかなり飲んだじゃん。
ああ、久々に、こうやって皆で会うのもいいな」
有吉は今来た方に向かって顎をしゃくり、まどかも振り返って見た。
山口とみちるがブラブラ歩いて来る。
暗くてよく見えないが、あの距離だと二人は手をつないでいるだろう。
そして、山口の隣で吉野が、二人の邪魔にならないように気を遣いながら喋っているに違いない。
「オレ、もうすっかり一人前の大人、って思ってたけどさ、なんか、こうやってみんなに会うとつい、高校時代に戻っている自分がいるんだよな」
有吉は海の闇のずっと遠くを見ながら呟き、風にそよぐ前髪をかき上げた。
「部活が無くなったら……卒業したら、五人で集まることって無くなっちゃったよね。それぞれ忙しくて。まさか七年ぶりに、みちるから連絡がくるとは思わなかったよ」
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