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まどかは自分の顔を両手で挟んだ。
少し頬が熱い。ーーやっぱり飲み過ぎたかも。
有吉はまどかに視線を移し、続けた。
「オレたちが就職した頃は、めっちゃ忙しかったからな。景気良くて、仕事と金は山ほどあった。そのかわり遊ぶ暇はなかったけど……でもさ、オレ、知らなかったよ。覚とみちるが付き合っているなんてさ」
「あ、みちるが久々に実家に帰ったときに地元の歯医者に行ったら、山口が跡を継いでたらしくて」
「山口歯科な。オヤジさん引退したんだ? でも、オレだったら嫌だな、知ってる奴に口の中見せるの」
「なんだよ、何の話だよ」
山口が後ろから膝で有吉の尻を蹴る。
「いて。やめろよ。金目からお前達のなれそめを聞いてたところだ。みちる、よせよせ、こんなヤブ医者。こんなのに見せてたら、あっという間に総入れ歯だぞ」
「おまえ、海に落ちろ。鮫の餌になってこい」
「あはは、やめなよ。鮫なんていないよお」
みちるは朗らかに笑いつつも、山口のシャツを咄嗟に掴んだ。
「でもね、大丈夫。私は覚じゃなくて、お姉さんの方に見てもらってるの。彼女の腕は確実だよ」
「ナチュラルにディスるな」と、山口はみちるの頭を胸に抱え込んだが、彼女はするりと逃れて舌を出した。
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