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無音のアッシュ
血色い花が咲いた。
熱い熱い花弁を散らせて、鉄くさい香りを舞いて。
まるで路面電車が嘔吐したかのように、開いた扉から乗客が次々と降りた。
聖夜を控えた「鉄の男広場」は、一気に混乱状態になった。
混乱の中心に居るのは、床に倒れた中年の女性。ぐったりと脱力し、着用した高価そうな衣服は血液で染まっている。
じきに警察と救急車が到着するだろう。
これで、いい。
これが、良い。
この女性は、長年一方的に嫌っていた義母が認知症を発症したとわかった途端、義母を施設に放り込み、自分は義母の貯金を使い込んで派手な生活を送っていた。施設の利用料を滞納し、義母に必要な衣類の購入を依頼すれば、肌に合わない化学繊維の衣類のみを差し入れしてきた。心優しく大人しい義母は、嫁の仕打ちに泣き寝入りしてばかりで、重度の鬱状態にまでなってしまった。
義母に酷いことをするこの女は、このような目に遭って当然だ。
これで、いい。
これが、良い。
彼は自分に言い聞かせ、この場を離れた。
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