第1話

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第1話

◼️プロローグ 「お電話ありがとうございます。  結婚相談所フロマージュです」 「あの、、、初めてなんですが」 「初めてご利用の方でございますね。  ありがとうございます。  では来店予約を行いますので、  お名前をフルネームでお伺いできますか?」 「佐伯祐希です」 「佐伯様でございますね。  来店希望日はございますか?」 「今週の土曜日とかって、空いてたりしますか?」 「少々お待ちください、、土曜日でしたら、、、  14時はいかがでしょう?」 「あっはい。大丈夫です」 「では、ご連絡先をお伺いできますか?」 「090-XXXX-XXXXです」 「ありがとうございます。それでは当日、  佐伯様のお越しをお待ちしております」 「こちらこそ、宜しくお願いします・・」 ・・・ 予約してしまった、、、orz ◼️第1話 一体いつからだろう? 行き交うカップルを羨ましく感じるようになったのは。 っていうか、 この人達ってどうやって付き合ったんだろ? 馴れ初めがめっちゃ気になる。 まだ学生っぽい若さのカップルなら、 学校で出会ったんだろうなぁ〜、 って納得できるんだけど。 (学校って実はものすご〜く恵まれてたんだよなぁ) (↑あの頃に戻りたい) 普通に大人のカップルを見かけたら、 いろいろと妄想してしまう。 同じ職場の先輩・後輩? または教育係だったのかな? (↑恋愛ドラマにありがちの設定) どっちから告白したんだろ? 教育係なのにフラれたら気まずくない? (↑教育係って決めつけんな↑どの係でも気まずい) ってか社内中に噂が広まるぞ! 絶対恥ずかしいじゃん!! そのリスクを踏まえた上で告ったってこと? マジですごいな! マジリスペクト! ・・ ふっ、取り乱しました。笑 ・・とまぁ、 こんな事を考えながら、通勤する毎日。 アクションを起こさなきゃ、 何も始まらない事はわかってる。 でも、起こしようがない。 最近はシステムエンジニアにも、 女性が増えたってよく聞くけど、 何故かウチのチームには来ない。 そりゃまぁ、 道端で好みの女性とすれ違ったりはするさ。 でも、、 すれ違っただけで何か始まる可能性があるのは、 ドラマだけ。 三十数年生きてるからわかってる。 僕の人生に、ドラマは無い。 『トゥルトゥン』 静かな電車内に通知音が鳴り響く。 (やべっ、マナーモードにしてなかった) どうせ会社のグループメッセージだろう。 メッセージアプリを起動し、 トークルームをクリックしようとした瞬間、 突如表示された広告を誤ってクリック。 ・・・ この、時間差で広告を上部に表示する手法、 どうにかならんのかね? (↑ちょいイラ) (広告をクリックさせるための確信犯にすら思えてきた) しかも、結婚相談所て! (タイムリーなのを表示すな!) 〜翌日〜 一回クリックしちゃったからかな? 何かこの広告ばっかり表示されてる気がするんだが。 (AIに独り身ってバレたか?) (↑何か悲しい) ・・ふ〜ん。 今なら入会金タダで初月無料か。 ・・ っていかんいかん! こんなんでクリックしてたら、 向こうの思う壺やん! 手の平で踊らされとるやん! ・・ へぇ〜。 初月無料の期間に退会しても、違約金0円か。 (↑結局クリックした。笑) ・・正直、 前々から結婚相談所って気にはなっていた。 そりゃあ僕だってね、出会いたいもの! ・・かと言って、 出会い系とかは絶対に嫌だけど。 (何か騙されそうだし) (↑偏見) でも結婚相談所って手軽じゃない分、 何かキチンとしてる印象があるんだよね。 闇金と消費者金融の違いみたいなもんかな? (↑どんな例えだよ) ・・うん、やってみるか。 何事もタイミングが大事っていうし。 何気に社会勉強にもなるし。 ・・今なら全部無料だし。 (↑それな〜) よし、早速WEBから予約を・・・ ・・いや、待てよ。 WEBから予約したら、 いつ電話がかかってくるかわかんないよな〜。 よく【お電話のご都合の良い時間帯を・・】みたい なのあるけど、 結局、 その日にならないと都合の良い時間帯なんてわからないんですよ! それが人生なんですよ! (↑ウザいやつ) そうなると、やっぱり直接電話か。 サイト内で一際目立つ【電話予約】のリンクをクリックし、 表示される電話番号を確認する。 うんうん。 通話料無料のフリーダイヤルね。 充分大手だな。 (↑判断基準チョロいな) 後はこの表示された【電話番号】を押すだけ。 ・・ う〜ん、 ・・ えーい!悩んでてもしょうがない!! ここで会ったが100年目! (↑意味不) 『プルルル』 電話の呼出音を聞きながら、 久しくなかったこの独特の緊張感が、 心地良くも、心地悪くも感じた。 〜来店当日〜 「いらっしゃいませ」 「14時に予約した佐伯ですが、、」 「あっ、佐伯様でございますね。  お待ちしておりました。どうぞこちらへ」 ・・余談だが、僕は“様”を付けられるのが嫌いだ。 学生時代、「さえ貴様!」と語尾を強めに強調されて、 バカにされたことがあるからだ。 ・・とまぁ、 センチメンタルな気分に浸っていると、 小綺麗な部屋に通された。 まぁイメージ通りと言えば、イメージ通りの部屋だ。 無駄なものはなく、 机には結婚相談所のパンフレットと登録用紙が置いてある。 「会員登録を行いますので、こちらの用紙にご記入をお願いします。」 ・・・ へぇ〜。 職業とか年収はわかるけど、 身長とか学歴まで書かないといけないのか。 (ウソ書いてもバレなさそう・・) (↑犯罪です) まぁ確かに、結婚相手を判断するためには、 必要な情報なのかもなぁ〜。 ・・適当に埋めて、登録用紙を差し出す。 「ご記入、ありがとうございます。  私、本日佐伯様をご担当させて頂きます、  新山と申します。宜しくお願いします」 「宜しくお願いします」 「では早速、佐伯様のご希望を確認させて頂きます」 登録用紙を見ながら、店員さんが続ける。 「・・優しくて、、適度に明るくて、、  適度に落ち着いている方、、でございますね?」 「はい・・」 (我ながら自分の壊滅的な文章力に、ただただ恥ずかしくなる) 「・・やはり、これらの条件だけで探すのは、ちょっと難しいですね」 再び登録用紙に目を向け、続ける。 「ご趣味は無いとの事ですが、  ほんの些細な事でも構いません。  何か好きな事はありませんか?」 「好きなこと、、、ですか?  そりゃまぁ、音楽鑑賞とか映画鑑賞とか、  犬とか猫とか、人並み程度には好きですけど、、」 「いいですね。その趣味だけでも、  条件に合致する女性がたくさんいますよ!」 店員さんがここぞとばかりに攻め込んでくる。 いかん、、 このままだとトントン拍子で話が進められちゃいそうだ。 「でも、、、結局人並みっていうか、、」 店員さんが手を止める。 「っと、申しますと?」 「ここで趣味が合致して気に入った人とは、  やっぱり、、、会う事になるんですよね?」 「それはまぁ、そうですね」 店員さんは、さも当然という顔をしている。 「向こうはちゃんとした趣味なのに、  こっちは薄っぺらい人並み程度の状態で会って、  果たして会話が成り立つんでしょうか?」 「初めは誰もが不安になるものです。会ってみると、  意外と話が弾んだりするものですよ」 「でも、、いきなり会うのはやっぱり不安で、、  趣味についてちゃんと話せなかったら、  “あーなんだこいつニワカじゃん”  とか思われそうで、、、」 僕のネガティブトークを、静かに聞いていた店員さんが口を開く。 「・・ではいっそ、条件無しで探してみますか?」 「いやっ、それこそ無理です!  会話とか、何話せばいいかわからないですし、、  ありきたりな『ご趣味は?』みたいな会話って、  苦し紛れというか、、沈黙を恐れるあまり  絞り出した言葉、、というか・・」 ・・僕が甘かった。 いろいろ言葉にしてみて、改めてわかった。 まさか自分が、ここまで“こじらせている”とは。 とてもじゃないが、 僕なんかに人生のパートナー探しをできるわけがない。 ・・でもまぁ、それに気付けただけでも、 ここに来て良かったと思う事にしよう。 「やっぱり、、」 リタイア宣言をしようとした僕の言葉を、 店員さんが遮る。 「でも今、初対面の私とは、  たくさん話せているじゃないですか。  一応、私は女性ですが」 ?、何を言ってるんだ?この人は? 「いや、、  アナタは女性だけど、店員さんじゃないですか」 少し考えて、 また店員さんが口を開く。 「・・なるほど。  ではSプランにしますか」 Sプラン? 机の上のパンフレットにちらっと目をやったが、 載っていない。 そもそも、この結婚相談所の料金プラン等について それなりに予習してきたが、全く見かけなかった。 「あの、Sプランって?」 「当結婚相談所の、職員として働くんです」 「はっ?」 つい心の声が漏れてしまった。 店員さんは続ける。 「まぁ、厳密に言えば、働きながら相手を探すんです」 「えっ?・・いやっ、ふざけてるんですか?」 「大マジですよ」 店員さんの顔が笑っていない。 マジなのか? 「そんな婚活、聞いた事ないですよ!」 「でしょうね。当結婚相談所だけのスペシャルな内容ですので」 「いやいやっ、っていうか僕、  普通に正社員として働いてるんで無理ですよ」 「休日に接客していただきます。  大体1〜2時間くらいです」 「・・・」 「今、私はこのたった10分程度で、  どれだけアナタのことを知ったと思います?  しかも、、、私自身の事は全く喋らずに」 「!」 「ねっ?理にかなっているでしょう?」 ・・確かに。 ”店員“という武器がある以上、 (いやっ、”職員“か?) (↑どっちでもええわい) 客は自分の情報をたくさん喋ってくれる。 今の仕事、生活をただ続けていても 絶対に手に入らない武器だ。 理想の相手に巡り会う可能性は、 格段に上がるだろう。 「ただし、条件があります」 僕の気持ちが揺らぎ始めた事に気づいたのか、 店員さんが真っ直ぐに僕を見つめて続ける。 「アナタは一応、  当結婚相談所の職員になるわけです。  もちろん、給料もお支払いします」 「えっ?お金がもらえるんですか?」 「単なる会員様を職員と偽って接客させるのは  詐欺ですからね」 ・・確かに。そりゃそうだ。 「ですので例えば、全く自分にとって  理想のタイプじゃない方がいらっしゃっても、  ちゃんと真摯に対応してください。  しっかりお客様と向き合い、  真剣に話を聞いてあげる。  そして、その方の理想の相手を、  一緒に探してあげてください。  あくまで勤務時間内は。  ・・これが条件です。宜しいですか?」 「・・はい。わかりました」 ついつい、 オッケーしてしまった。 ・・でも、正直な話、、 これほど、僕に向いている婚活は 他にないんじゃないかと思ってる。 仕事としてならば女性とも話せる。 (↑気がする) これから僕は、 “結婚相談所の職員” という武器を片手に・・いや両手に持ち、 (↑どっちでもええわい) 婚活を始めるわけだ。 ・・・ 久しくなかったこの独特の緊張感が、 とても心地良く感じる。
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