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それとも、晴れだったろうか。
少なくとも、私の心は雨模様だったに違いない。
何せ、勤め先からクビと言われたのだから。
行く当てもなく街を彷徨っていた。
これから、どうしよう。そんな事ばかり考えていた。
そんな時だった。
目の前に、財布が落ちていたのだ。
人混みの中、猫背気味に俯いていた私だけが気付いたのだ。
辺りを見渡すと、少し離れた場所に持ち主らしき影を見つけた。
身なりが良く、育ちの良さを窺える横顔に私は思わず魔が差したのだ。
仮に、ここで失くしても困らないのではないか?
恩着せがましく届けるのもいい。
気がつくと私は、拾った財布を懐へ忍ばせ脱兎の如く駆け出していた。
情けない。
本当に、私は弱い人間だ。
息が上がり、脇腹が痛くなった頃、私はようやく立ち止まった。
走るのに夢中だった私はいつのまにか知らない場所に来ていた。
ここはどこだろう。
薄汚れた光景だった。
微かに鼻をつく生ゴミの匂い。
行き交う人々はまるで生気を感じない。
「あはは」
誰かが笑っていた。
笑ったのは私だった。
急に馬鹿らしくなったのだ。
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