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なんとも言いようのない会話だったけれど、とにもかくにも挨拶は済んだ。 すぐに帰るのも、と悩んで、薔薇園をふたりで眺めることにした。 わたくしたちが出会った場所。わたくしの、思い出の場所。 物静かな庭園を歩く。華やかな赤い花を見て、「ああ、これはたしかにあなたの色だな」とふいにルークさまが呟いた。 このひとは、宝石でも、服でもなく、花を見てわたくしを思うのね、となにかがすとんと胸に落ちた。 こんなにきれいな花を見て。わたくしを。 そういえば、渡される花にはどれも、「あなたに似合うと思って」「あなたを思い出して」「あなたのお屋敷のカーテンに合うと思って」などと、いつもこまやかでやさしい理由がついていた。 私に花はわからないけれど、と以前言われたのを思い出す。 でも、ルークさまがご存じなだけのお花より、ただ季節にふさわしいお花より、甘やかな花言葉のお花より、わたくしのことを考えて選んでもらえるほうが嬉しい。 ああ、好きだわ、と思った。ずっと好きだわ、と思った。 たぶん、きっと、「私もあなたには赤が似合うと思います」と笑ってくれた、あの日から。 そのなにも変哲のない言葉を聞いて、なにか、特別に眩しくて、特別にあたたかい言葉を聞いた、と思った。 たった一言が、心の一番深いところにある弦をおそろしい精度でかすめていったのだった。 「ルークさま。わたくし、生きる理由をあなたさまに預けてもよろしいでしょうか」 渡すのではなくて、捧げるのでもなくて、預けるの。 勢いよく振り向いたルークさまが、ちいさく呟く。 「……それは、あの返事ととってもいいだろうか」 「ええ」 もしご迷惑にならないようなら、わたくしもご挨拶にうかがったほうがよろしいかしら。 そのお相手が、国王陛下と王妃さま方、王太子殿下、王子殿下、王女殿下なところがいたたまれないけれど。 考えただけでも緊張してしまうわ。でも不思議と、いやな思い出になりそうな気はしなかった。 ルークさまのご家族だと思うからかしらね。
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