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「そうか」とやさしく笑ったルークさまが、「アンジー、ヴェールに触れても?」とそっとこちらに手を伸ばした。 「ええ、どうぞ」 「ありがとう」 婚約は四度目だった。 婚約した三人は三人ともが殉死した。わたくしと婚約した順に、婚約後の兵役でお役目を果たして。 四度目の婚約者も、いくさに出向くことに変わりはない。でも、ヴェールを外したいと言ってくれるのは、ルークさまだけ。 そっと見上げた視線の先で目が合った。相変わらず宝石のようにうつくしい空の色をしている。 「あなたはほんとうに、赤が似合うね」 「ルークさまはこの昼間にあっても、月のようですわ」 アンジーと呼んでくれること。話し相手になってくれたこと。 ルークさまは最初から、わたくしをただのひととして見てくれた。それだけのことが、はじめてで、怖くて、苦しいほどしあわせだった。 「アンジー、怒らないで聞いてほしい。ああいや、笑ってやってほしい」 「まあ、なんでしょう」 「公爵殿に挨拶をさせてもらったし、婚姻の了承ももらったし、あなたが名前で呼んでくれるから、きっと、そういうことなのかとは思ったんだけれど」 「ええ」 「あなたの返事が、お受けいたします、だけだったものだから。……実を言うと、少しだけ、不安だったんだ」 笑ってやってほしい、と言われたからではなく、思わず笑いがもれた。 いまさら身分の心配をするなんて、このお方はやっぱりどこか抜けている。 笑いすぎて浮かんだ涙を節の高い指先でそっと拭いながら、ルークさまが困ったように眉を下げた。その困った顔さえ、いとおしかった。
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