1

6/23

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
とっさに予防線を張りながら、ちいさく聞く。 わたくしを見てすぐに身をひるがえさないということは、ある程度身分がある、遊学中の方なのかしら。 もしこの国の方ならば、身分にかかわらず、わたくしが何者か、どなたでもご存じだもの。 特に上流階級の方の間では、こういう宴の際はたいてい庭園に逃げ込むことも有名で、わたくしが参加しているときは、貴族令息は庭園にいる令嬢に絶対に自分から声をかけないそうよ。 間違っても、あの(・・)公爵令嬢と関係を持ってはいけないから。 わたくしにはもう随分前から、まことしやかに囁かれてきた噂がある。 魔女。忌子。肉親にまで見放された、麗しくもおそろしい、呪われ令嬢。 わたくしが呪われ令嬢だと知ったら、だれしもすぐさま背を向けた。世話を言いつけられている者たちまで。 この国ではみな、明るい髪色と瞳を持って生まれてくる。 黒は悪魔や邪神に魅入られた証であるとされ、忌みきらわれてきた。 そういう神話があるのだから、黒髪の子どもが忌子と言われるのは必然だった。 なかには邪神の影響や降臨を恐れ、産声をあげたばかりの幼子を、その場で儚くしてしまう家もあるほどだ。 わたくしは母が懇願したために、生きることを許されたそうだけれど、その母も、最後までわたくしを生かしたことを後悔し続けていたという。 わたくしは黒髪に赤い瞳をしている。 黒髪は父の色でも母の色でもないけれど、瞳の赤は母譲りの色。 待望の子どもということで、母のおなかから、赤い瞳と不吉な黒い髪をした赤子を産婆が取り上げたところを、諸手をあげて喜ぶはずだった多くの召使いたちが見ている。 母にとっては不幸なことに、わたくしが母の子どもであることはたしかだった。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加