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母はこの醜い見た目の子どもを、自分の娘だと思い込むことができなかったのでしょうね。 両親に避けられ、世話係に逃げられ、忌子ゆえに幼いころから隔離されてしまったものだから、あまり母のことを覚えていない。 とても儚いひとだったらしい、とだけ知っている。 容姿のせいで、お母さまと呼ぶことさえ許されなかった。 母は、日に焼けると炎症するからと、肌を極力隠して年中室内にこもっていた。 まるで霞を食べて生きているかのような、消え果てそうな雪を思い起こさせる、線が細くて小柄なひとだった。 身体が弱くて座ってばかりいたけれど、ときおり立って父と並ぶと、その小柄さが目についた。 しんしんと積もる雪に似た白銀の髪に、高価な宝石と見紛う大きくてうつくしい赤い瞳。 あまりにきれいで儚くて、物語に出てくる妖精のような母は、わたくしが幼いころに心の病で亡くなった。 もともと出産で体調を崩していたところにいろいろが重なって、耐えきれなかったらしい。 忌子を産んだことを周囲も自分も強く強く責めていたのだと、人伝いにそれだけ聞いたのは、葬儀が終わったあとのこと。 そうして父親である公爵は、娘を遠ざけるようになった。広大な領地の外れの屋敷に閉じ込められても、どうすることもできなかった。 父は後妻を取っていない。おそらく傍系の家から養子を取って家をつなぐのでしょう。 父は、その美貌で鳴らした母が日に日に弱り果ててやせこけ、目ばかりが大きくぎらつくようになっても、最後まで母を愛していたもの。 もしくは、いまはもう寺院に退いてよけいな争いごとを避けた、父にとっての弟、わたくしにとっての叔父を還俗させるのかしら。 情勢の読める、賢明で優秀なお方らしいから、叔父さまが有力候補かもしれないわ。家を絶やすわけにはいかないもの、叔父さまも納得してくださるでしょう。 または、万が一わたくしが婿を迎えられたら、父、わたくし、わたくしの子どもという順に継承権が移る。無理だと思うけれど。
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