第2章 真綿のような

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「ごめんね、無理に会いに来ちゃった?」 「ううん。知哉さんが来るまでに、レポート終わってる予定だったんだ。ごめんなさい、ちょっと待ってて」 「ゆっくりでいいよ」  明日までに提出のレポートをなんとか仕上げようと、必死にノートパソコンに向かう。  知哉さんはスマホを見ている。間取りはワンルームだから、知哉さんの部屋みたいにソファーなんかなくて、ベッドに腰かけてもらっている。 「終わったー」 「お疲れ様。今日は仕事早く上がれたから、会いたかったんだ」 「うん」  あれからまた別の日に、もう一度セックスをした。知哉さんのベッドで。やっぱり恥ずかしいから寝室は薄暗くして。  ベッドに座る知哉さんに近付く。ちょっと甘えたくて、知哉さんの足の間に座り、少しくっついた。 「ご飯はもう食べたの?」  髪をなでながら知哉さんが聞いてくる。 「うん。知哉さんは?」 「俺も外回りの途中で食べた」 「そう」 「こっちおいでよ」  ベッドの下に座っていたから、引っ張り上げられてベッドに乗り上げた。  優しいキスをしてくれる。  服のボタンに手をかけられた時、部屋の電気が気になったけれど、今日はこのままでもいいかなと思った。  脱がされて、知哉さんも脱ぐ。  お互いがお互いの色んなところにくちづけていた。  横向きに寝ながら抱き合って、知哉さんの首に腕を回して首筋や肩の辺りにくちづけた時、背中に大きな(あざ)があることに気付いた。  ちょっとびっくりしてくちづけが止まる。 「あ、背中の痣?」  知哉さんもわかったようだ。 「昔の怪我(けが)(あと)なんだ。中二だったかな」 「そう……。今も痛いの?」 「普段は別に。たまに季節の変わり目とか、ちょっと痛むことがあるってくらい」 「そうなんだ」 「……家庭環境があんまり良くなかったんだ。それで」  確かに知哉さんは、『家族はいないようなもの』と以前言っていた。  大学に入って、友達が普通に「母親いないから」とか、「訳あって祖父母に育てられて」とか言うことがあって、自分が思っている以上に家庭が大変な家って多いんだなと知った。  北嶋もそうだった……。 「ごめんね、こんな話」 「ううん。そんな知哉さん、ごめんなんて言わないで。俺、知哉さんに出会って、知哉さんを好きになったんだから、別に他のことは関係ない」 「ありがとう」  優しくほっぺたをなでられる。 「知哉さん」 「ん?」 「今痛くないなら、キスしてもいい?」 「えっ、うん」  横向きとうつ伏せの間の体勢になった知哉さんの背中にそっとキスをする。  この(あざ)の痛みよりも、心の痛みを感じた。だから、そっと、そっと、優しくそっと、キスをした。  ――痛みが少しでも消えますように。 「飛鳥、抱かせて」  組敷かれて上からキスされる。 「ありがと。優しい飛鳥が大好きだ」  耳元で言われた。  初めての時も二回目の時も優しかったけれど、今日はもっと優しく抱かれた。突かれるというよりは、自分の中で知哉さんが切なく揺れている、そんなセックスだった。  ()やしたいのに、逆に癒やされている。大切にしたいのに、逆に大切にされている。そして、優しい気持ちになる。  そんな気持ちをくれる人が今、近くにいる? 誰かに傷付けられることなく暮らしている?  ねぇ、北嶋……。
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