運命の出会い

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「翔君に怒られたくないなら、今日は諦めたら?」 人垣をかき分けて会議室に入ると、何やら真剣な話をしていたようだった。 気付かないふりをして 「外、凄い人だかりだよ」 と苦笑いしてお茶を差し出すと、彼も緊張しながら微笑み返してきた。 そんな不器用な笑顔が又、慣れてない感じの初々しいさで可愛い。 (こりゃ〜、同年代に居たら堪らないや。) そう思いながらも、こんな美人を射止めた翔君はさすがだな〜って関心してしまう。 俺は翔君の恋人なら、きちんと自己紹介しなくちゃと 「ごめんね。陽一には、メモを入れてもらったから」 そう言って、スーツの胸ポケットから名刺入れを取り出して名刺を手渡しながら 「営業の篠崎 幸(こう)です。初めまして」 そう微笑んだ。 すると天使はホッと安心した笑顔を浮かべると 「ご迷惑をお掛けしてすみません。初めまして。僕、赤地蒼介と言います」 と言いながらお辞儀をしたのだ。 (赤地……蒼介?) 忘れたくても、忘れられない名前。 「赤地…蒼介?」 思わず口から出た声は、引くて地を這うような声になっていた。 俺から陽一を奪った、憎い人間が目の前に居る。穢れを知らず、守られて生きて来たこいつが俺から陽一を奪ったのが悔しかった。 八つ裂きにしても足りない程に憎い相手を目の前にして、俺は冷静さを欠いていた。 彼が怯えた目をした瞬間、タイミング良く会議室の内線が鳴り出した。 「はい、第2会議室です」 『あぁ、篠崎君か。翔が来てるらしいな。社長室に来させてくれるか?』 とだけ言うと、内線が一方的に切れた。 「翔君、お父様がお呼びだよ」 と、苦笑いをして伝言を伝えると、翔君は嫌そうな顔をしてから 「蒼介。悪い、ちょっと社長室行ってくるわ…。幸さん、悪いけど…蒼介を宜しくお願いします」 そう言い残して、部屋から出て行った。 そしてこの部屋には、俺と憎い赤地蒼介だけになってしまった。 「何しに来たの?」 思わずドスのきいた声で聞くと、彼はビクリと身体を震わせ 「あの…田中さんにお借りした物を返しに…」 と弱々しく答えた。 (そうやって、虫も殺せない顔で陽一を誘惑したの?) 「陽一が?きみに何か貸したの?」 怪しんで聞くと 「はい。倒れた時に、スーツのジャケットを…」 と答えたのだ。 俺はその瞬間、陽一がジャケットを忘れて戻った日を思い出す。 (大人しそうな顔をして、又、陽一に会う口実にジャケットを借りるなんて!) 腸が煮えくり返る思いを押し殺し 「じゃあ、俺が陽一に返しておくから」 って、手を出した。 「え?」 「え?じゃないよね。返すだけの為に、会社まで押しかけて来て…。虫も殺せないような顔をして、随分、図々しいんだね」 口から出た言葉が、次の酷い言葉を生み出す。 「今更会ってどうするんだよ。陽一、来月正式に婚約するんだよ」 わざと破棄しようと動いている事を言わず、彼を追い詰める言葉を吐いた。 「悪い事言わないからさ、諦めなよ」 陽一のジャケットが入っているであろう紙袋を奪おうと近付くと、彼がハッと息を飲んだ。 「何?あぁ…、陽一の香りがした?ごめん、一時間前に此処でしてたから」 次から次へと、彼を傷付ける為の言葉を吐き出す。 「何?何をしてたかって?そんなの決まってるだろう?SEXだよ」 彼は俺の言葉に、気持ち良いくらいに傷付いた顔をする。 俺は彼の顎を掴み 「陽一は誰にでも優しいから、勘違いしちゃうんだよね。悪いけど…、きみの入る余地なんか無いから」 と、自分で自分に呪いの言葉を吐いた。 (本当に入る余地が無いのは、俺の方だ……) そう思った時、彼の身体が震えて綺麗な瞳から涙が溢れ出した。 (あぁ……なんて綺麗に泣くんだろう) 酷い言葉を吐く分だけ、心が乾いていく。 「何?ショックだった?もしかして、きみも陽一に抱かれたの?」 そう聞いた時、彼の瞳が見開かれた。 (陽一は……この子を抱いたんだ……) 足元が真っ暗になった。 彼の身代わりで抱かれた俺には、彼がどんな風に陽一に愛されたのかが手に取るように分かって苦しくなった。 いっそ、この手で目の前の憎い相手を殺してやりたくなって首に手を伸ばそうとしたその時、部屋のドアノブからガチャリと音がした。 ハッと我に返り、怖くなって数歩彼から後退る。 (オレハイマ……ナニヲシヨウトシタ?) 彼の首を絞めようとした両手を見た時だった。
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