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再会
実家に戻るという事は、悪夢のはじまりだった。母親の店は傾き始め、前から厚化粧だった母親は益々厚化粧になっていた。
「なんだい。金もらって養子に出すはずだったのに、又、穀潰しの面倒を見なくちゃならないのかい」
吐き捨てるように言われ、陽一のご両親が俺の母親に手切れ金を支払って引き取る手続きをしていた事を知った。
「幸ちゃん」
いつも優しかった田中の母さん。
「幸、遠慮するなよ」
お手伝いばかりしている俺を、いつも気遣ってくれていた田中の父さん。
2人には、感謝してもしきれなかった。
そして母親に言われ、俺はお店に出て働くようになった。
田中家で大切に育てられた俺は、この母親の血が入っているのか?と聞きたくなる位には綺麗な顔をしている上に、均整の取れたスタイルになっていた。
そんな俺は田中家で暮らすようになり、何故か女子からの人気も爆上がりだった。
なので、母親は俺を客寄せパンダにしたみたいだった。
表向きは21時までお手伝いをさせて、洗い場担当ということにしていたが、実際は客の相手をさせてホステス紛いの事もさせていた。
それでも、俺は田中家の2人に御恩を返す為に逃げ出さずに自宅での生活に耐えていた。
そんな時、母親に男が出来た。
ある日、学校帰りに自宅に帰ると、見知らぬ男が俺の帰宅を待っていた。
「噂通り、お前、母親に似ずに綺麗な面してるなぁ~」
俺の顎を掴んで、下卑た笑いを浮かべた男が呟いた。
「止めて下さい!」
その手を払うと
「止めろ?はっ!お前を好きにして良いって許可もらってるんだよ」
そう言われて、薄い万年床に押し倒された。
「嫌だ!止めろ!」
必死に抵抗すると、馬乗りになって顔を平手打ちされる。
「大人しくしろ!初モノだって言うから、こっちは高い金を出してんだよ!」
そう叫ばれ、母親に売られた事を知った。
後の事は記憶にあまり無い。
身体を這う気持ち悪い感触と、身体を切り裂き、体内を犯す硬い異物に貫かれる痛み。
この日をきっかけに、俺は本格的に家出をした。そんな俺を拾ってくれたのが、住み込みの職場を探してふらついていた時に出会った鐘崎純也だった。
会社を経営していて、俺にマンションを与えてくれて、高校受験までさせてくれて、県内トップの南高校へも通わせてくれた人。
まぁ……俺は当時、鐘崎の愛人だった。
あいつが抱きたい時にマンションに来て、抱きたいように抱いて帰る。
それでも、生活の面倒から学費の援助までしてくれていたから、本当に感謝している。
そんな生活をしていた俺の目の前に、南高校の入学式で間違える訳の無い名前を見つけた。
「田中 陽一」
俺は必死に陽一を探すと、新入生代表で陽一がステージに立っていた。
その姿は俺の知る陽一では無かった。
やんちゃな瞳は芯の強い瞳に変わり、容姿は誰もが目を惹く色気を纏ったイケメンになっていた。
(陽一だ!陽一が同じ学校に居る!)
入学式が終わり、帰宅する人の波から陽一を見つけ出した。
どんなにたくさんの人が居ても、陽一の周りだけは光が射して見えた。
久しぶりの再会に嬉しくて
「陽一!」
って叫んで飛び付くと、陽一は冷めた目で俺を見下ろした。
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