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それはまるで、知らない人を見るような目だった。
「誰?」
低くて響く、甘い声が俺を突き放す。
「俺だよ!幸!篠崎幸だよ!」
必死に陽一に訴えると
「お前の知っている田中陽一はもう居ない!俺に構うな!」
そう言い残して、陽一は俺の身体を剥がして去ってしまった。
その背中は全てを拒否しているようで辛かった。
入学してから、陽一のモテっぷりは凄まじかった。
同年代はもとより、年上の先輩方からも騒がれていた。
真面目で硬派な優等生。
それが田中陽一の表向きの顔だった。
そんな陽一の裏の顔を知るのには、そんなに時間は掛からなかった。
俺はあの日以来、どんなに無視されても陽一にずっと声を掛け続けていた。
その日も昼休みに陽一を探していると、保健室に入って行くのが見えた。
俺も中に入ろうとして鍵が掛かっているのを不審に思い、ドアというドアを探っていると、廊下の足元にあった小窓が空いているのに気付いた。
絶対に陽一は此処にいる!と思っていると、中からベッドの軋む音と
「もう……、優等生なんでしょう?イケナイ子」
とクスクス笑う女の声。
「学校じゃ、ダメだって……」
「あなたが呼び出したのに?」
陽一と女の声に胸が焼けそうになった。
「あ……っ、ん……陽一、ダメだって……」
甘ったるい声に吐き気がして、ゆっくりと窓を閉めてその場を立ち去った。
学校の女子に告白されても、全部断ってるという噂を聞いていた。
だとしたら……相手は誰?
ぼんやりと考え事をしていると、すれ違いざまに肩が誰かとぶつかる。
「あっ!ごめんなさい」
顔を上げると、普段、陽一とつるんでる奴等だった。
「あれ?いつも田中のケツを追い回してる、篠崎じゃん。」
「何?田中を探してるの?」
ニヤニヤとこちらを見て言われ、俺が無視して通り過ぎようとするて
「なぁ、田中が誰と付き合ってるか、知りたくないか?」
4人組の1人が呟いた。
「知ってるの?」
思わず訊くと
「此処じゃまずいから……」
と、資料室に連れて行かれた。
「お前、そんなに田中が好きなの?」
資料室に入るなり聞かれ
「親友の心配しちゃ、いけないのかよ!」
そう叫んだ俺に
「親友ねぇ……。切なそうな熱視線送って、親友だとさ」
笑う4人組に
「陽一が付き合ってる人を教えてくれるんじゃないの?教えないなら、帰るから!」
踵を返した瞬間、腕を掴まれて押し倒された。
「お前、綺麗な顔をしてるからさ……。ヤラせろよ。どうせ、田中ともやってたんだろう?」
そう言われて、罠にはめられたのに気付いた。
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