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あの日から、陽一は俺を傍に置いてくれるようになった。
そんな時、偶然、鐘崎さんとラブホで会っていたのを陽一に見られてしまった。
「幸、お前……」
愕然とした顔をする陽一が辛かった。
陽一にとって、俺はあの頃のままの綺麗な俺のイメージだったんだろう。
「陽一……ごめんなさい……」
泣いて謝る俺を、陽一はあの強姦事件のせいで男に抱かれるようになったと勘違いしたみたいだった。
俺はそれを利用した。
狡いと分かっていたけど、例え細い糸でも縋り付きたかった。
「じゃあ……、陽一が代わりに抱けるの?無理でしょう!」
そう叫んだ俺を、陽一は抱き締めてくれた。
「お前がそれで救われるなら、幾らでも抱いてやる。だからもう、自分を安売りなんかするな!」
そう言ってくれた陽一を利用したんだ。
陽一を裏切ってでも、陽一が欲しかった。
嘘でも同情でも良いから、その腕に抱かれたかった。
俺はこれをきっかけに、鐘崎さんと別れる決意をした。
鐘崎さんは良い人で
「俺は本気で幸を愛していた。でも、お前の心が一人だけを求めていたのも知ってたよ」
そう言って、手切金としてマンションを俺に譲ってくれた。俺はマンションを売って、鐘崎さんの不動産会社から安いアパートを借りて学費をそれに当てた。
かなり立派なマンションだったので、かなりの高額で売れて大学の入学費位まではなんとかなりそうだった。
別れても、鐘崎さんは身元保証人としてずっと俺を支えてくれていた。
俺は狡いから…、利用出来る人を利用して生きてきた。
だからなのかな?
一番欲しかった人の心を掴む事は出来なかった。
「陽一、抱いて…」
俺から誘わなければ、陽一は俺に触れたりなんかしない。
初めて抱かれた日の事は、今でもはっきり覚えている。
鐘崎さんとの事がバレて、陽一は俺が求めればいつでも抱くと約束をしてくれていた。
でも、実際はすぐにそんな関係にはならなかった。
俺も身辺整理をしていたし、抱いてくれるから「じゃあ…」って訳にはいかなかった。
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