208人が本棚に入れています
本棚に追加
2人の関係
全て身辺整理を済ませ、引越しが終わった頃に、陽一が引越し祝いに来た。
壁も薄そうなボロアパートで、俺は初めて陽一に抱かれた。
陽一自身は、単純に引越しの手伝いに来たつもりだったらしかったが
「引越し祝い、何か欲しいものあるか?」
と聞かれて、「陽一……」と答えたんだ。
陽一は驚いた顔をして俺を見たけど、俺は構わず陽一の唇にキスをした。
唇を重ね、陽一の整った唇に舌を這わす。
「幸……」
戸惑う陽一の胸に頬を擦り寄せ
「お願い……」
縋る思いで呟くと
「男を抱いた事が無いから、勝手が分からないけど良いのか?」
そう言って腰を抱き寄せた。
返事の代わりにキスをすると、陽一は俺を抱き締めて唇を重ねた。
ずっと欲しかった人。
焦がれて焦がれて、やっと触れて貰えた。
舌を絡め、口腔内を陽一の舌が犯していく。
どうすれば気持ち良くなるのかを知り尽くしたキスが、陽一の今までの肉体関係の多さを物語っていて苦しかった。
でも…………、陽一が男を初めて抱く相手になれた優越感もあった。
学ランを脱ぎ捨て、シャツを脱いで露わになった陽一の鍛え抜かれた身体に欲情した。
性欲なんて無さそうな、鉄壁の表の顔。
そして、自分の立場を有利にする為になら、どんな相手でもその美しい容姿を武器に誘惑する裏の顔。
どの顔も好きだけど、俺にだけ見せる素の陽一を失う恐れより、この時の俺はこの美しい男に抱かれたかった。
触れて欲しかった。
こんなに誰かを渇望したのは、後にも先にも陽一だけだったと思う。
誰も映さない瞳も、厚い壁に覆われた心も、全て欲しいと思った。
自分も衣類を脱ぎ捨て、全裸で抱き合った時には全身が痺れるようになった。
布団に押し倒され、壊れ物に触れるように優しく抱く陽一が愛しかった。
どうすれば俺が気持ち良いのか、確認するように様子を見ながら抱く陽一の配慮を、愛情だと信じたかった。
「幸……」
労わるように髪に触れる大きな手が好きだった。
甘く掠れた声で、俺の名前を呼ぶ陽一の声が堪らなく愛しかった。
初めて陽一を受け入れた時、俺で勃起してくれた事が何より嬉しかった。
男でも受け入れてくれたんだと、そう信じてしまったんだよな……。
そう……。
陽一は、愛の無いSEXを重ねて来た。
だから、どんな相手であろうと、自分を求めた相手を抱く術を持っていただけなんだと、この時の俺は気付かなかったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!