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君は、ラーメンが好きかな?
無論私は、大好きだ!
豚骨ラーメンのこってりさに、舌が蕩ける思いがする。
醤油ラーメンの香りに、鼻腔を擽られるようだ。
味噌ラーメンの旨さには、脱帽する他ない。
私の数少ない趣味は、ラーメン屋廻りだ。
休日に街を練り歩き、気になったラーメン屋に入り、オススメを注文する。
けれども、歳をとると身体がラーメンを受け付けなくなってくる。
具体的には、泣く泣くスープを残さざるを得ないのだ。
それも自然の摂理、受け入れる他ないのだが。
さて今日は、電車で隣街まで来ている。
この街のラーメン屋は、地図に載っていないもの、移動する屋台のもの含めて制覇したからだ。
駅から歩いて数分、妙に気になったビルの地下入り口を覗く。
一見すると、看板も無ければ、店舗があるようにも見えない。
だが、空気に混じって仄かに香るスープの匂い、間違いない裏ラーメンだ!
私はとても運が良い、早速この街の裏ラーメン界の一端に巡り会えるとは!
逸る心を抑えて、暗い入り口に潜る。
私の推測に誤りなく、そこはラーメン屋だった。
だが、一般のラーメン屋と違い、箸や胡椒はなく、メニューすら置いていない。
いつ摘発されても逃げられるようにする、裏ラーメンのスタンダードスタイルだ。
店員は頑固そうな店主が一名、若手の店員が二名。
若手の従業員とは、裏ラーメン界には珍しいことだ。
昼時を少し過ぎただけにも関わらず、客は少なく私を含めて5名。
椅子の数を見るに、10人は座れるはずだが、昼時でも全て使われるのか怪しいだろう。
バカな、あそこに座っているのは、裏ラーメン評論家、浦野 喰麺氏!
辛口で知られる彼が、御仏がごとき笑顔でラーメンを啜っているだと?
私も早く食べたい…!
「ラーメン一杯、オススメを頼む」
席に着くや否や、私は店員にそう注文する。
スープの匂いは幾種類かある辺り、ラーメンの内容は豊富なはず。
その中から、何をオススメに選ぶのか?
「へい、お待ち!」
出てきた一杯は、私の想像を越えていた。
具材は一切なく、細麺と、水と見紛う透明なスープがあるばかり。
胡椒や唐辛子が一緒についてくる訳でもない。
確かに、麺とスープでラーメンは全てが決まるといって、過言ではない。
過言ではないが、まさかその二種類だけで勝負を仕掛けてくるとは、かなりの自信……!
麺をマイ箸で掴んで、啜る。
瞬間、口の中に爆発が生じた。
スープは、その透明さに見合わぬ旨味が凝縮されている。
それでいてしつこくなく、幾らでも飲めてしまえそうな軽さだ。
麺は、固茹でながらもしっかり味が染み込んでいて、絶妙にスープと絡み合っている。
なんだこれは、何がこれ程の味を…?
厨房を盗み見て、理解が及んだ。
所狭しと冷蔵庫内に積まれた出汁を取るための具材の数々。
何時間煮込んだのであろう、沸き立った幾つものスープ。
そればかりではない、麺の中にスープに合わせた具材を投入し、練り混ぜている。
そしてそれを、麺を茹でるためだけに使っている、スープと同じ汁の中に投入している。
採算度外視の究極のラーメン
それこそが、このラーメンの正体であったのだ……!
「おやっさん、お勘定! 」
私は、感動のあまりに叩き付けるようにお代を置く。
「代金より多いですよ、こんなに貰えませんって 」
「私の舌を見くびらないで頂きたい!
このラーメンには、これだけ払う価値がある!! 」
私は、満足と満腹感を抱きながら、店を出た。
善きラーメンとの出会いに感謝を!
さあ、次の休日はどんな店に行こうか?
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