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第1話 疾風の黒兎
壊れた建物の脇腹を透かして、赤く巨大な太陽が血のように滲み出ていた。暗くなり始めた世界を必死に照らし出そうとしているのか。
ゴーグル越しに見るトーキョーは、コロニーのガラス越しに見る以上に死んでいた。太陽と風と樹と、それだけが生きていて、屹立する無数の廃ビルは先人の墓石のように群がっていた。
自動二輪は白く輝き、日差しに抗うけれどもアレらから逃れることはできない。それでもカタナは暗くなるセカイを切り裂いて走る。走る走る走る。唸りをあげながら。あたしはこの子の唸り声が好きだ。独りで走らせているとタマラナクナル。なあシュバルツ、おまえも好きだろう?
太陽が沈み、残光も消え去った。
ヘッドライトが行く手をわずかに照らし出していた。追っ手の気配はない。どうやら、あの子たちをうまく引き離せたみたいだ。
他に動く物も音を立てる物もない中、自動二輪のスポットライトから外れる度、背後でセカイが死んでいく。サヨナラ、サヨナラ。映し出され、また消えて行くのは、ひび割れた黒い道と両脇に並ぶ無機質な箱状の建物群だ。
あたしの背後で、轟音とともに廃ビルが崩れ落ちた。門のような不思議な形をしていたもの。先人たちは何を思って、こんなに巨大でつまらない建物を量産したのだろう。
見ていても心を動かされることがない。もっともいまは、どこからか芽を出し、這い回り、這い登った植物群がヒトのいなくなった建物を覆い、少しだけ美しく見える。
我らが先人に祝福あれ。
赤茶けたクライミングプラントと、埋もれていく墓石に、アーメン。
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