第13話 第二夜

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第13話 第二夜

 樹の下を目指しての第二夜である。  大怪我の後、どこかに不具合が出たのか、それともアリアに何かあったのか、頭の中のドアは閉まったままだった。  しかし、今夜、また独りで起きていると、ドアの隙間から音楽が聞こえてきた。  題名も何もわからない。ただアリアが選びアリアが聴いている音楽が聞こえてきた。むずむずと体が動こうとする。崩れた壁の隙間から差し込む月明かりの下で一人あたしは踊る。観客などいらない、友などいらない。シュバルツに捧げる舞踏なんだ。当のシュバルツは一心にチモシーを齧っていたが。かりかりかりかり、一心に。ポッキーを齧るように。かりかりかりかり、月の下に軽やかな音が響く。あたしはシュバルツの邪魔にならないように音を立てず静かに舞を舞った。ふわりと跳び上がると足元の影もふわりと離れる。息の合った相棒のように。あたしが足を着けると相棒も足を着ける。いつまででも二人で踊っていられるように思えた。影を盗まれれば人は死ぬ。それは、アリアが語ってくれた御伽話(おとぎばなし)だ。  音楽は終わり、再びドアは閉じた。  ひとつの音楽に出会う。それはひとつの奇跡なのだと思う。何かに出会う時、そこには奇跡としか言いようのない何かがある。  昔のもの外のものさまざまなものが様々なところからさまざまなルートでアリアに届けられる。するとそれは雑然とした土のように彼女を育てるんだ。なにかに。それまで存在しなかったなにかに。  アリアの声を聞きたい。
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