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第14話 第三夜
樹の下を目指しての第三夜である。
喉が渇いて眠れない。焚き火の火照りが胎内に燃えているようだ。渇いて渇いて、タマラナクナル。そばで眠っているドーマを殴りつけたくなる。破壊衝動と性衝動は同じひとつのものである、ドクターの言葉を思い出す。
チクショウ! 身体が熱い。だが、その手には乗るものか。あたしはあたしだ。
身体を貫く欲望とは掛け離れたことを考えよう。ドクターの言葉は難しいが、こういう時には役に立つ。
言葉は螺旋なんだ。
と、ドクターは言っていた。次々と宿主を変えながら、形を変えながら生き延びていく。その先の受け手へと。だからこそ、ああ、汚い言葉を使ってはいけないのです。
まさに然り、畜生め! アーメン。
時に子供の言葉は鋭い真実を帯びる。触れれば致命傷になるほどには。聖なる言葉は狂った言葉。では、無垢な言葉は? ああ、ダメだ。身体の熱が脳を犯している。うまくものをかんがえられない。なにを考えていたのだったか。
言葉は伝染する。
良くも悪くも人を変えるのは言葉だ。目にしてしまったら、読んでしまったら、聞いてしまったら、もはや、そこから逃れることはできない。言葉が呪術的である由縁がそこにある。それはその瞬間に伝染するのだから。螺旋のように旋回し、聞く者の耳下に潜り込んで行く。そこに寄生し、そこから子孫をばらまくのだろう。まるで、まるで、まるで、
……まるで、生殖のようだ。
気付くとあたしはドーマの上にまたがっていた。だが勘違いしないでくれよ。まだ何もしちゃいない。あたしは女王のスペアから女王になりつつあったらしい。この火照りをどうすればいい。紫と赤の女のように乱れればいいのか。誰か助けろ。あたしの渇きをなんとかしてくれ。
不吉だ不吉だ永遠に不吉だ。
アリアの死を予感しながら扇情に悶えるあたしは何者か。あたしは、あたしは……。開かなくなった頭の中のドアを叩き続ける。アリア、アリア、あなたに会いたい!
樹の下へ行って、女王として凱旋しなければ。アリアがどうしているのか、どうなっているのか、ドクターの元へ戻らなければ。
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