第16話 第五夜

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第16話 第五夜

 コロニーへ帰る途中の第五夜である。  自動二輪は重いだけの役立たずになっていた。途中で燃料が切れたのだ。しかし、古い武器の一種から取った名前通り、あたしにとっては魂のようなものだから置いてはいけない。  ドクターが言っていたように、カタナは魂なのだ。これがなければ、あたしは疾走することもできない。  シュバルツに餌をやりながら、ドクターの話を思い出した。アリエッタ、この古文書を見ろ。この鉄の塊こそが魂なのだ。我がバイブルに書かれてある。などと言っていたが、子供向けの古い本にしか見えなかった。  科学者という魔法使いだけが何が起きているのか本当に理解している。自動二輪のアクセルを回して喜んでいるあたしと棒切れを振り回して興奮する猿人と何が違う。むしろ、何もわからないのにわかった気になっているあたしの方がたちが悪い。  先人たちの前に絶滅した、ルイジンエンなるものがあったとドクターが言う。その言葉には哀れみと(さげす)みが混じって聞こえた。  もし、新たな種が後を引き継ぐとしたら、それはやはり古い種は絶滅したと言えるのではないか。それを個としてみればどうか。あたしが死ねばあたしという種は絶滅するのではないか。たとえあたしに子供がいたとしても、あたしと同じ家系の誰かが生き残っていたとしても。生物の肉体としての形がいくらか残存したとして、それはやはり絶滅ではないだろうか。  呪文のような言葉が頭に残っている。ヒト科ヒト亜科ヒト族ヒト亜族ヒト属生物。昔、えらい人が言った。人類絶滅に関する研究は、蝿のそれより少ない。  Y染色体アダムあるいはミトコンドリア・イヴに、さいわいあれ。
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