第7話 芋虫と蝶

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第7話 芋虫と蝶

 混濁した意識の底であたしは夢を見る。  ハイキョと化したトーキョーの黒い土の上で冷たくなりつつあるのか、それともコロニーの鉄のベッドに繋がれているのか。アリエッタなのかアリアなのか、いまのあたしには何もわからない。本当はすでに死んでアリアの頭の中を彷徨(さまよ)っているのかもしれない。  眼前には、巨大な地下墓地(カタコンベ)が広がっている。透明なカプセルに入った無数の白骨。管が伸び、途中で千切れ落ちている。あの人たちが残したのは瓦礫の山と髑髏(どくろ)の山だけだ。哀れさここに極まれり。アーメン。  最後に残った地下天使(アングラー)は自分が最後の地下天使だと知っていたのだろうか。いや、最初の人間が己をそうと知らなかったであろうように、最後の人間もそうとは知らずに死んだに違いない。  何事も早い者勝ちなのだ。残り物にはクソがあるのである。クソウズを手向けてやりたいところだが、あいにく手元にない。  芋虫のままで死ぬというのも一興じゃないか。空を行く蝶が幸せだなんて誰が決めた。美の神にだって頭を下げてなんてやるものか。喜びの娘を産めず、永遠に地べたを這うことになろうと。  うっすらと開いた目に光が映る。  現実か夢か、その区別ははっきりしないけれど、少し雲が晴れて光が落ちてきているように思えた。近くに誰かの気配を感じる。  妹たちだろうか。それともアリエッタの心だけが寄り添ってくれているのだろうか。もしかしたら、シュバルツが御主人様を助けようと人の姿になったのかもしれないぞ。  雄か雌かわからないままだったから、男女どちらの姿をとっているのだろう。もし、シュバルツの変化(へんげ)だとしたら、だけれど。  最期に思うのがそんなくだらないことであることを嬉しく思う。  げぷっ、  自分の口から下品な音が漏れて、錆びた鉄の味が口中に広がる。そんな幻の如き思いが木漏れ日とともに落ちかかり、眩暈の元となって広がった。ふわりと浮かび上がるような感覚。  古い壊れかけた映像にあったように、天上へ迎え入れられるのだろうか。おともは犬ではなく兎だが、それでも赦されるのか。我らは血の味を忘れてはならない。アーメン。
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