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第7話 クッキーと
だんだんと日差しが強さを増し、昼の盛りには木陰でも暑くて過ごし難い。少し足が遠のいていた公園へ久しぶりに出向いた。
噴水の吹き上げる様をスケッチしていると、ずかずかと近付いてくる小さな気配があって、描きかけのページを覗き込まれた。
「うまいねぇ」
と声をかけてきたのはマキちゃんだった。少し離れてユナちゃんも立っていて、なんとなく不機嫌そうな照れたような様子で、んっ、と小さな紙袋を突き出してきた。
「くれるの?」
「クッキー。ママが持ってけって」
紙袋を受け取るも、事情が飲み込めず不思議に思っていると、ユナちゃんが、絵のお礼と付け加えた。どうやら、この間のラフな絵を母親に見せてくれたらしい。
お礼を言って紙袋を開けると、まだ焼きたてのような香ばしい匂いが広がった。
「でも、僕の来る日がよくわかったね」
「そんなのわかるわけないじゃない」
ちょっと呆れたように言う。ユナちゃんは自分がお姉ちゃんなのだという気持ちを強く持っているみたいだ。
「ママはね、毎日クッキーを焼いてたの。おにいさんがいたら渡しなさい、いなければあたしたちのオヤツにって」
「なるほど」
うんうんと頷いていると、マキちゃんの目が紙袋に釘付けになっていた。可愛いレディーの口元にはよだれも少々。
一緒にクッキーを食べながら少し話をした。マキちゃんの話は僕の知らない学校の友達や先生の話ばっかりで、意外だったのは、ユナちゃんがたくさん話してくれたことだった。
妹の手前、自分がしっかりしないといけないと思っているのだろう。本当は、おしゃまでおしゃべりな女の子みたいだ。
ママとパパは仲が良くないとか、離婚するかもしれないとか、あまり子供の口から聞くべきでもないことを淀みなく話していた。子供というものは、ウサギのように本当は何でもわかっている。
「ママはね、ビョーキなんだって。だから、あまりおそとに出ないの。ちょっと変なの。ママはちょっと変だよ。先生も言ってた。ちょっと変わってるって」
「ママは好き?」
ユナちゃんが黙って頷き、マキちゃんが横から、好きー! と声をあげた。
クッキーを食べ終えて別れ際、思い出したように、ユナちゃんがポケットからメッセージカードを出してきた。何日も持ち歩いていたのだろう。よれて曲がってしまったカードには、綺麗な字で、
すてきな絵をありがとうございます。
と小さく書いてあった。
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