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第9話 プレイボーイ
妖精女王のマスターは、事のほか喜んで小さなお客さんを迎えてくれた。クロちゃんに会いに来たと聞くとさらに喜んで、ご褒美用のペレットを渡して餌やりもさせてくれた。
ウサギは決して人懐っこい動物じゃない。
抱っこが嫌いなウサギも多いが、クロちゃんは違うらしい。可愛い女の子には気を許すなんて、まさにプレイボーイ。僕には気安く触らせてもくれないくせに。
ユナちゃん、マキちゃんは、ウサギと遊べて御満悦の様子だった。さらに店内は子供の興味を惹くものでいっぱいだ。二人とも目をキラキラさせて品物を手に取っていた。
商売っ気のないマスターの置くものだから流行りのものもないけれど、古い木のおもちゃから、変わった文房具、アンティークビーンズに貝殻のネックレス、本物そっくりの食品サンプル、青いガラスの小瓶、スヌーピーのコップなどなど、ひとつひとつが、子供の目を奪ってやまない。
長いことそうして店内を見て回っていた二人だけれど、なにやらコソコソと内緒話をしながら笑っていた。あれもだ、これもだと嬉しそうに話す二人に、どうしたのか聞いてみると、家にあるのと同じ物がたくさんあるという。
「えへへ、マキが見つけたの。おねえちゃんより先に見つけたんだよ」
得意げに言う妹に、ユナちゃんが口を尖らせて手に持った物を突き出した。それは二人のママが使っているのと同じメッセージカードで、
「これを見つけたのはあたしだもん。絶対、ここで買ってるんだよ」
と自信たっぷりに断言した。
その時、からんからんとドアベルが響き、それと重なるように、ちりんと風鈴が鳴った。エアコンの効いた店内に夏が入ってくる。
白いワンピースに向かって、あ、ママだぁ! とマキちゃんが飛び込んで行き、僕はまた魔法にかけられたように動けずにいた。
マキちゃんを抱きとめたのは、もちろん僕の妖精女王、みどりさんだった。少しだけ驚いたように、でも次の瞬間には嬉しそうにマキちゃんを抱きしめていた。
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