掃除の神様降臨!

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 12月31日。  昨日が私の仕事納めで、今日が彼の仕事納め。  というわけで私は彼の家に合鍵で入って、とあることを収めようとしていた。  それは 「私が掃除収めをしてあげるんだから!」  勿論彼から『掃除をしてくれ』と頼まれたわけじゃなくて、自主的な掃除。  これは彼の浮気チェックも兼ねているのだ。  正直彼が浮気をしているような雰囲気は1ミリも感じられない。  でもそれは私が鈍感だからかもしれないから、ここは積極的にチェックしてしまおうという話だ。  普段だったら掃除していたらおかしいけども、今日は大晦日。  大掃除をしていたって違和感は無いはず。  完璧な私の作戦に、私自身、震え上がっている。  きっとイヌのチョコちゃんも震え上がっているでしょう。 「ね! チョコちゃん!」 《ワン! ワン!》  ちょうどいいタイミングで彼の家のイヌ、チョコちゃんが可愛く吠えた。  チョコちゃんは私にすごく懐いているので、私が部屋を行き来する度に私の後ろをついて回る。  でももしかすると、私以上に誰かに懐いているかもしれない、そのチェックを大掃除でしてやるんだから!  私は拭き掃除兼棚チェックからすることにした。  雑巾を絞って、棚の外は勿論、中まで掃除する。 「さぁ! 頑張るぞ!」 《ワン!》  チョコちゃんも私のやる気に共鳴する。  ここまでチョコちゃんと私が仲良いのならば、もう浮気をしていないのでは? いやいやチョコちゃんだって今日だけは敵だ! 信じられない!  私は雑巾でゴシゴシし始めてから3分くらい経過して、あることに気付いた。 「結構面倒だ……」 《わふん……》  何だかチョコちゃんもシュンとしてしまっている。  チョコちゃんというオーディエンスもしんなりとしてしまっては、やる気がよりそがれてしまう。  ここで私はとある名案が浮かんだ。  それは掃除の神様を降ろして、掃除をするという方法だ。  でも実際掃除の神様は降ろせないので、降ろしたていで、演じて掃除をするのだ。  掃除にエンターテインメント性を入れ込んだ私の案、これはなかなかだな、と思いつつ、早速掃除の神様を降ろした。 「私は拭き掃除の神様! どんなところもゴシゴシキュッキュで全国大会前の体育館の床ぐらい綺麗にしてみせましょう!」 《ワン! ワン! ワン!》  うん、チョコちゃんのリアクションもいい感じだ。  この調子でやっていこう! 「全国大会は1ミリの埃でもズレてしまうからねー! そんなことはあってはならないんです!」 《ワフぅ~ん!》 「さぁゴシゴシしていきましょう! 塗装はもう剥げるモノとして勢いよくやっていきましょう!」 《ワンワンワァン!》  そんなこんなで一気に拭き掃除が終わった兼浮気っぽいモノは一切無かった。  もう分かりやすく私じゃない下着があるかなとか思ったけども、全然無かった。  さぁ、次は棚の隙間に埃取りをサッサッだ。  こういう棚の隙間に何らかの名刺が落ちている可能性もあるので、ワクワクドキドキだ。  ただしその前に、 「私は棚の隙間に埃取りをサッサッの神様だ! 正しい名称なぞ存在しない! サッサッの神様なのだ!」 《ワフゥン!》  チョコちゃんのリアクションが非常に良い。  何だかチョコちゃんはどんどん声を強く出せるようになっていってる気がする。  それに呼応して私の声も大きくなってくる。  喉が開いてくる。  これはかなり良い状態だなと思いつつ、掃除をし始めた。 「サッサッ! 隙間という隙間を綺麗にするのだ! 隙間を綺麗にするマシーンなのだ! いわばスキマシーンなのだ!」 《ワンワン! ワンワン!》 「そしてお主は彼のことが好きマシーンなのだ! だから掃除しているのだ! そうだろうっ?」 《ワッフゥ~ん!》  淀みなく、サッサッは終了し、浮気感のあるモノは一切出てこなかった。  髪の毛も彼のスポーツ刈りと、私のショートボブの長さしか出てこない。  あとはチョコちゃんの美しい毛か。  私は自分のことが鈍感だと思っていたが、もしかすると実はすごい良くて、彼の浮気が一切無いから何も感じていなかったのか?  いやいや彼と自分自身は最後まで疑おう! 結婚間近の雰囲気を感じているからこそ!  最後はこれだ! 「ただただ押入れをチェックしつつ一応整理整頓してあげる神様の登場だ! ドーン! もはや浮気チェックの神様! 降臨じゃーい!」 《ワワワワワワーン!》  チョコちゃんのテンションもマックスといった感じでかなりいい感じだ。  仮に彼が浮気していたとしても、チョコちゃんとの仲だけは永遠といった感じでいきたいと思った。 「どりゃー! 浮気チェックの神様がお通りだぁー!」 《ワワワワン! ワーン!》  そう言いながら私は彼の押し入れをすごい勢いで開けた。  ダーンという音が鳴ったけども、全然気にしない。  浮気チェックの神様はもはや豪快なのだ。繊細さゼロなのだ。 「客人用の布団もチェックするぞー! こんなもん怪しいんだよぉぉおおおおおおおお!」 《ワフン! ワフン!》  布団を一旦床に広げて、くまなくチェック。  やっぱり私っぽい毛しかない……私専用の布団のようだ。  布団はまた押し込んで、押し入りの中の収納ケースも全てチェックする。 「どりゃりゃりゃりゃー! 神様に掛かればこんなもぉぉおおおおおん!」 《ワッフン!》  ドタンバタンと収納ケースを開け閉めしまくっていたその時だった。  私のスマホが鳴ったので、何だろうと思ってみてみると、彼からの電話だった。  いやでも今はまだ彼は仕事中の時間のはず。  もしや浮気の虫の知らせか! と思いつつ、勢いよく電話に出ると、彼がすぐにこう言った。 「綾子、オマエなんか暴れてない? 俺がチョコ用に設置しているウェブカメラに暴れているオマエが映っているんだけども」  チョコ用に、設置している、ウェブカメラ……えっ、そんなもんがあるの? この家って?  彼は続ける。 「家に異常があるとスマホのアラームが鳴る仕組みなんだけども、何か、布団出したと思ったら戻したり、収納ケースを開け閉めしながら叫んでるみたいだし、どうしたんだ、大晦日になると暴れるほうの狼男か?」 「違うよ。普通の神様……じゃなくて、人間だから大丈夫、静かに料理作ってるだけ」 「そうか、全然料理作っているようには見えなかったけども、まあゆっくりしてくれよ。一応時間通りに仕事終われそうだ。何かあったらまた連絡するし、何かあったら連絡してほしい」  そう言って彼は電話を切った。  ……いや……そうか……見られていたのかぁ……私のこの様子を……。  いつからだろうか、家に異常があるとスマホのアラームが鳴る仕組みだったのか……音も関係しているのかもしれないな……叫び声とか喋り声も聞こえていたのかもしれないな……神様とか言っちゃってたけども大丈夫かな……別れ切り出されないかな……もう浮気がどうとかじゃなくて、ただただ私の人格一択で別れることになっちゃわないかな……。 《わふぅん……》  チョコちゃんも何だか悲し気な瞳で淡く鳴いた。  私は優しくチョコちゃんを抱いて、そのまま彼のベッドで寝た。  そして彼は仕事から帰宅し、開口一番こう言った。 「サッサッの神様は別にいいけど、浮気チェックの神様は降臨するなよ。してないからさ」  結構中盤から知られていたみたいだ……。  彼は続ける。 「というか浮気が気になるなら、俺の部屋のウェブカメラ共有しようか? それなら俺のこと好きな時チェックできるから」 「いやいい……」  今はウェブカメラ恐怖症だ。  私はぶるぶる震えていると、彼が私を抱き締めながらこう言ってきた。 「大丈夫、すごく面白かったから。やっぱり綾子は最高だと思ったよ。掃除してくれてありがとう。愛してるよ」  ……なぁんだ、すごく面白かったのなら良かった良かった。  私はホッと胸をなで下ろした。 (了)
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