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一杯目 青春味
じりじりと頭上から照りつける日差しか、もしくは姿が見えないが数えきれないほどのセミが鳴く声なのか、どちらか区別がつかない音が耳に障る。
全くこの擬音、もしくは擬態語を作った昔の人には感心するばかりだ。どれだけ耳を澄まして聞いてみても二つの音は確かに「じりじり」と鳴っており、それにしか聞こえない。
噴き出るような汗を手で拭い、張り付くシャツをパタパタと剥がしながら鯨井樹は空を見上げた。
雲一つない青空に浮かぶ太陽の光に思わず目がくらむ。地下鉄の駅から地上へ上がってきた樹には尚更眩しく、そして暑かった。目の前の大通りには車やバスが並んでおり、それらのエンジンによって道路がゆらゆらと歪んで見える。熱気でアスファルトが溶けそうだ。
「何か冷たいものでも買おうかな」
樹はそう言って周りを見回してから肩を落とす。周辺にお店はおろか、自動販売機の一つも見当たらない。少し遠くにはJRの駅があり、そこまで行けば何かありそうだ。
どうやらあの駅に行くしか涼むことはできないみたいだ。樹は諦めて気怠そうに足を駅に向かって進める。
どれだけ体力を使わずに歩いても汗が止まることはない。それどころか太陽の日差しに加えてアスファルトから、そして体の内側からの熱気でアスファルトが粘土のように足を踏み込めば沈んで埋もれていく気がする。今すぐにスラックスをまくってソックスを脱ぎ捨てたい気分だ。
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