一杯目 青春味

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 樹は二百円ちょうどを財布から取り出して祭の手の平に置く。 「そしたら、前の椅子で食べさせてもらいますね」 「どうぞ、ごゆっくり」  にこやかな祭の笑顔に見送られて樹は店先の赤もうせんの長椅子に腰かける。外は相変わらずうるさくて暑いが、持っているかき氷と隣でちょろちょろと音を立てている水鉢を見ていると汗が引いていく。 「何年ぶりかな」  少し興奮した状態のまま氷を掬い、口に入れる。途端にしゅわしゅわとした感覚が口の中から頭にまで泡立ち、その後はすっきりとした爽快感に充たされる。祭がかけたシロップ『青春』はいわゆるラムネ味だった。  下と上あごでつぶすように食べると、より味が口中に濃く染みてくる。久しぶりに補給される水分だったので、樹はかき込むようにかき氷を口に入れる。  当然のことながら一気に入れたことでこめかみの内側がギンギンとまるで鐘でも打たれているかのように痛み出す。  指でこめかみを押さえていると、樹の目の前の光景が一瞬だけ変わった気がした。瞬きをして前を見ると、目の前が泡で満たされていく。まるで水の中にいるかのように泡はふわふわと空へ飛んでいく。  頭痛のせいで幻覚でも見えているのだろうか。上昇していく泡を追うように視線を上げると、まばゆい光が射してきて樹は瞬時に目を瞑る。  すると、不思議なことに瞼の裏の真っ暗な世界でも泡があふれている。おまけに頭痛に加えて眩暈までしてきた。  もしかして熱中症か?  何とかしたいのは山々だが、脳の反応が一向に体に伝達しない。金縛りのような状態で心だけ悶える樹の耳に蝉の鳴き声が一層甲高く聞こえてくる。  それと同時に樹の五感が急に遮断された。
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