第1幕 はじめまして

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第1幕 はじめまして

それは私が10歳の時。 朝ごはんを食べていると、施設長がにこにこ顔で近付いてきた。 「おはよう美鈴、突然だけど今日でお別れだ。 食事が終わったら荷物をまとめておいてね」 私は驚きつつも頷いた。 食事を終え食器を片付けると、自分の部屋へ向かい荷物の整理をした。 コンコンッ 軽やかなノックの音が響いた。 「はぁいっ」 スっとドアが開くとお世話係の沙苗さんが入ってきた。 「美鈴ちゃん、荷物の整理は終わった?」 「はい!」 「そう…」 沙苗さんは少し寂しそうな顔をした。 「沙苗さん、今日までありがとう。 私、沙苗さんの事忘れないよ」 私がそう言うと、沙苗さんは頷きながら涙を流した。 荷物を持って部屋を出ると、外で施設長がお客さんと話をしていた。 私に気付くと施設長は手招きをした。 「美鈴、君の新しい家族、藤原暁人さんだ」 「藤原です。美鈴ちゃん、よろしくね」 白衣を着た若い男の人で私は驚いた。 「…宜しくお願いします」 私が頭を下げると、施設長は私の肩をポンポンと叩いた。 「藤原さんはね、優秀な研究所の職員なんだ、 きっと君を大事にしてくれるよ」 そしてニコッと笑った。 研究所の人…だから白衣を着てるのかな? 「家はあまり広くはないけど、何か必要なものがあれば手配するからね」 藤原さんは優しく笑った。 そうして私は藤原さんの車に乗り込むと施設を後にした。
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