婚約者の足跡

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 どうも、足立と申します。  突然で申し訳ありませんが、私、息子がいましてね。はい、一人息子です。母親──私の妻は、息子を産んだ直後に亡くなりました。いわゆる「産後の肥立ちが悪かった」と言う奴です。  「お産は病気ではない」とは言いますが、人間一人産むんです、何があるかわかったもんじゃない。正直、舐めてました。あれよあれよと言う間に妻はいなくなり、私と生まれたばかりの息子が残されました。  慣れないことばかりで本当に大変でしたよ。でも、ここで息子に何かあったら、妻に合わせる顔がない。必死でした。幸い、私の両親も妻の両親も近くに住んでいて、代わる代わる手伝いに来てくれたので、助かりました。でなければ、私も参ってしまっていたところです。  おかげ様で、息子は祖父母の愛情に包まれてすくすくと育ちました。……そして、それが起こったのは、息子か五歳になった頃でした。  息子の様子がおかしいのを、最初に教えてくれたのは母でした。  育休が終わった少し後から、私は会社で大きなプロジェクトを任されることになりました。自然、仕事は忙しくなります。引き続き両親に頼ることになりましたが、正直寂しい思いをさせていたのではないかと思います。 「ねえ、幸ちゃんのことだけどね」  ある日、母がそう話しかけて来ました。……あ、幸ちゃんというのは息子の名前です。幸一と言います。 「あの子ね、ちょっと目を離すと、誰もいない部屋の隅とか、何もない部屋の空中とかに向かって何か言ってるの。まるで見えない誰かと話してるみたいに」  恐らくそれはイマジナリーフレンドのようなものではいかと、私は考えました。子供にはよくあることだと聞いています。しかも、息子のような一人っ子には。 「心配ないよ、母さん。そのうちおさまるさ」  私はそう言いましたが、母はまだ心配なようでした。 「でも、あの子のしゃべっていること、さっぱりわけがわからないのよ……」
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