見つめる先に

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   選手達が整列し終わり、表彰式が始まった。  瑞希の名前がしんとした会場に響き、「はい」と涼やかな声で答えた瑞希が、列の中から前に進み出て、軽く会釈する。  こういう一つ一つの所作でも、あいつは見る者を惹き付けてしまう。  後姿でさえこれだ。  面を外した今、賞状を受け取り、元の場所に戻る瑞希を目にした時、ここにいるほとんどの人が、岸さんのように心を奪われるだろう……。  そんな事を考えながら、賞状に手をかけた瑞希に拍手を送ると、真向かいの一番上の通路から、 「吉野ーッ! 優勝おめでとー!!」  山崎の大きな声が響いた。  思わず目を遣ると、一階に向け大きく両腕を振っている。  ―――ああいう所、本当に感心する。  タイミングといい、そういう事を平然とやってのける神経といい……俺には絶対できそうにない。 「先輩、サイコー!!」 「めっちゃかっこいー!」  山崎に続いて渡辺達が、賞状を持って礼をする瑞希に手でメガホンを作って叫ぶ。 その声援で、拍手が一層大きくなった。  顔を上げた瑞希が―多分…瞳に驚きの色を浮かべているだろう―向きを変えて会場を、それから二階席をゆっくりと見渡し、そして――深く、頭を下げた。    ………胸が、詰まる。    瑞希の、こんなところがたまらなく好きだ。  外見に惑わされ見落としてしまいがちだけど、剣道はもちろん、人に対する真摯さや生真面目さを、ここに居合わせた全ての人が知るだろう。  どこまでも清廉で真っ直ぐな、瑞希の本当の美しさを―――    誰よりも苦しみ、努力を重ね、やっとここに辿り着いたんだ。  持てる力の全てを出し尽くし、正々堂々戦ったと信じられる。  いつの間にか俺も藤木も立ち上がって拍手を続けていた。  俺達だけじゃない、一人…また一人、立ち上がる人がどんどん増えて、山崎達につられるように一階に向け、感謝と労いの言葉を口にする。 「お疲れさーん」 「いい試合だったぞー」 「来年も期待してるからなー」 「全国大会頑張れよー」    ……全て、瑞希一人の為に。  俺も、あいつに伝えたい。  『最高の試合 見せてくれて、ありがとな』  
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