ホルマリンに浸されて

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ホルマリンに浸されて

 4月上旬の土曜日の昼下がり。  窓から差し込む暖かな日差しに包まれながら、私は部屋の掃除に追われていた。  明日、数ヶ月ぶりに家に男性が来ることになっている。  知り合ったのは1ヶ月ほど前で、とんとん拍子に仲を深めていった。  まだ告白はされていないが、きっと付き合うことになるだろう。  隅々まで念入りに掃除機掛けをしたあと、粘着カーペットクリーナーでカーペットのゴミを丁寧に取る。  細々とした部分はハンディモップで綺麗にし、少しの埃さえ許さない徹底ぶりだ。  仕上げに、3段作りのオープンシェルフに置かれた小物やコスメ道具を綺麗に飾り直したら、長時間に及ぶ掃除は完了だ。  オープンシェルフには、ブランド物の香水やアクセサリーケースが並んでいる。上段のど真ん中、棚の一番目立つ場所には、黒ずんだリングがぽつんと飾られている。  一粒のジルコニアが輝くこのリングが飾られてから、気づけば5年が経とうとしていた。  あの人は私が初めて、そして唯一愛した人だった。  恋しか知らなかった私に、愛を教えてくれた。  リングは二人で迎える2度目の誕生日に贈ってくれたもので、それはまるでプロポーズのようにも感じられた。あの真実を知るまでは。
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