1017人が本棚に入れています
本棚に追加
悪魔の恋人
秀は、不治の病に侵されている。
現代医療では、治療法が見つかっていないらしい。単に心臓を切り取って移植すれば済む問題ではないのだというから、私の心臓など、あっても無意味だった。
一週間生死を彷徨った秀のもとへ、両親が訪れることは終ぞなかった。
あの尊大な男が、息子の有事に駆けつけるような甲斐性を持っているとは私も思えなかったから、おかしなことは何もない。
私たちは、似ている。
隆一が入院している部屋とは大違いの高級そうな部屋で眠りこける秀は、芸術品のようだった。
秀の婚約者を名乗る女が出てくるかと思いきや、一度も出くわすことなく、秀の父親についているらしい執事から聞くには、あの屋敷の使用人は、大雨の日に総入れ替えになったらしい。
秀はかなり前から訴えていたようだ。真意がどこにあったのかは知らない。
おそらく、秀は、目覚めたとしてもそのことに触れる気はないだろう。もちろん、木野美穂が私にコンタクトを取ってくることもなかった。
母と隆一は、退院後は二人で暮らしていくらしい。隆一からは一緒に住みたいと言われていたが、考える間もなく断ってしまった。
静かな日が続いている。
秀がこの病院に入院するのは、実は二度目らしい。
一度目は、幼少のころ、雨に打たれて体調を崩したときで、その日、秀は初めて両親との約束を破って、屋敷の外へ出たらしい。
秀が外へ出たのは、後にも先にもそれが最後だったと聞いた。
最初のコメントを投稿しよう!