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秀の世界は、うつくしい庭に完結されている。
二度目に屋敷を出た理由が何だったのか、問うこともできずに、秀の閉じられた瞼を見つめていた。
「秀、ゲームでもしようか」
手持無沙汰で、窓の外を見つめながら、一人でつぶやいている。
あなたの思う通り、私は、一人ぼっちになった。
「秀が今日、目を覚ましたら、一生一緒にいてあげても良いよ」
馬鹿みたいな言葉だ。言葉遊びも、一人ではつまらない。自嘲して、流れる雲を見つめている。
後ろでかすかな笑い声が聞こえた。吃驚に振り返る前に、低い声が鳴る。
「真尋はばかだね。これくらいで身体を壊すような男に一生をやるなんて」
「しゅ、う?」
緩慢に瞼が揺れる。
静かな呼吸が耳殻に擦れて、自分の鼓動がうるさいくらいに動いているのを感じた。あれだけ冷たく、死んでしまいそうになっていたのに、秀は忘れてしまったみたいに軽く笑って、言葉を奏でた。
「僕の側にいる理由なんて、ないだろう」
「まあ、側にいない理由もなくなりましたよ」
起き上がろうとしているらしい秀の身体に触れて、ベッドに座らせる。
至近距離でかがやく瞳は、こんなにも弱っているのに相変わらずうつくしさを損なわない。
「……あきれるほど、世話焼きだ」
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