宵っ張りの先人たちの足あとを辿るべからず

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「あーおーいーっ!雪降ってるからチョコ買いに行こーっ」 ピーンポーンと間延びした音を立てたインターホンの受話器の向こうから楽し気な声が響いてきた。私は振り返って机の上の置時計を見る。 丁度二時になろうとしているところだ。 京都は左京区にある小さな女性専用マンション。大学入学と同時に入居した洒落たタイル張りのそのこじんまりしたマンションの一室が今の私のささやかな城だ。 大学に入学して二回目の冬。一月の終わりからは試験期間だ。いくら日頃だらけた大学生をやっていても、さすがにこの時期には身が引き締まる。しかも二回生ともなれば、専門科目も増えている。単位を落として留年するわけにはいかないのだ。必然的に、試験期間前は自分の部屋にこもって講義ノートや六法全書を前に頭を抱えることになる。 試験の過酷さに追い打ちをかけるように、冬の京都はとにかく底冷えする。学生用マンションの断熱効率に期待など出来るわけもなく、今の私は暖かなジャージの上にトレーナーを重ね着し、更にドテラと靴下三枚を着用した、だるまのような状態だ。まぁ、試験前の法学部生なんてみんな似たようなもんだろう。 なのに。 私ははぁっと大きなため息をついてドアを開けた。ドアの向こうでは隣人のみとさんがニコニコと笑顔で立っている。私と同じ大学、学年、学部である筈の彼女は至って呑気そうな表情をしている。
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