宵っ張りの先人たちの足あとを辿るべからず

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「こうなりゃ、さゆりさんも道連れだー」と私が笑うと、「そうやそうや、道連れだー」とみとさんが囃し立てる。 真面目でいつも隙のないさゆりさんが寝ぼけ眼でドアを開ける瞬間を想像してわくわくしていると、やがて三〇四号室のドアがゆっくりと開いた。そこに立っていたのは、やっぱり同じ大学、同じ学部、同じ学年であるさゆりさんで、但し彼女はきちんと髪を結い、ジーパンを履いてダッフルコートを着込んでいた。 「え、なんで?」とみとさんが素っ頓狂な声を上げる。 「でかけるところやったん?」 「そんな訳ないでしょ」とさゆりさんがにっこりする。みととあおいがわちゃわちゃしてるのが外から聞こえたから、そろそろ迎えに来るだろうと思って準備してたんだよ、と。 「流石やなぁ」とみとさんが目を丸くする。全く、さゆりさんにはかなわない。 私たちは三人で外廊下に続く階段を降りて大通りに出た。雪が舞う夜中の街はしん、として静かで、人も車も全然いない。上を見上げると真っ暗な空からふわり、ふわりと白い雪が舞い、それは私たちの髪に、肩に、頬に落ちてはほんわりと水の粒へと変わった。無防備な顔だけが、キンと冷える。ほうっと白い息を吐き出しながら私は言う。
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