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「いけ!マックス!」
「ブラックセイバー!」
2台は並び、同じペースでカーブに差し掛かる。
「!?」
連続コーナーでブラックセイバーが前に出た。対するマックスTRFはやや遅れてしまう。
「くそ!」
「この辺が実力の差だ!」
続いては連続バンク。
ブラックセイバーはジャンプも低く安定している。だがマックスTRFはジャンプが高く、落下の際も左右のバランスが悪い。
しかも加速にやや時間がかかるのか、徐々にブラックセイバーとの差が開いてしまう。
「ちくしょー!なんでだよ!」
「おそらく、タイヤ径の差だな」
轟が呟く。
「マックスの大径タイヤは確かに最高速はブラックセイバーの小径タイヤよりは上だ。だがその分大径タイヤは加速が悪く、あんなストレートの少ないセクションだと力を発揮できない」
「しかもモーターは音と動きからしておそらくレブチューンモーター。対するブラックセイバーはトルクチューンモーターを使用していると見た」
輪島も轟の解説に付け加える。
「彼、ノブオ君はさすがにこのコースで連勝を重ねただけあって地の利がある。シャーシが最新型でも寄せ集めのパーツで組んだマシンではやはり不利という事ですね」
「だが、君は剛君が勝つと予想したんだろう?」
「ええ。勝つと思います」
まったく躊躇なく言い切る輪島。
「私としてもそうなってほしいが、この状況を見てもそう言ってのけるとはね…」
レースは続く。
「なんだ!大した事ねーじゃねーか。連続コーナーが続くこのコースじゃオレ様のブラックセイバーの安定性は必要不可欠!そのザマじゃいずれコースアウトするぜ!」
余裕綽々と先行するブラックセイバー。
だがここでノブオはひとつの違和感を覚える。
「(変だな。あんなセッティングじゃコースアウトしてもおかしくねぇ。なんでヤツのマシンはあのスピードを保ちながらコースアウトしねぇんだ!?)」
実はノブオのブラックセイバーはコーナーの際には減速するよう改造していた。つまりストレートでは速く、コーナーでは抑えるといったカスタマイズだ。
だがマックスTRFはまったく減速していないのにコーナーを曲がりきっていた。
「さすがスーパーXシャーシですね。剛性があるうえ低重心だからかスピードを保ったままコーナーが安定している。だからあんなスピードセッティングでもブラックセイバーにある程度ついていける、と」
「謎解きの鍵はスーパーXシャーシの中身にもあるよ。あのシャーシは通常のシャーシよりも長い72ミリの長いシャフトを採用しているんだ」
「しかもホイールベースが長い。まさに安定性を追求したシャーシですね」
マックスTRFはそもそものスピードはブラックセイバーにやや劣る。だがそのまま何も減速せずに走り続けていた。ゆえにブラックセイバーとの差は徐々に縮んでいく。
「さらにあのシャーシは従来のシャーシと違ってモーターも下部から着脱する仕組みになっているんだ。その機構が重心を下に向ける事になり、ジャンプもあれだけスピードセッティングになってるわりには低めで済んでるわけだ」
マックスTRFは全体的にロスの少ない仕上がりだった。これがブラックセイバーとは違ったアプローチの走り。
「そして彼もまた、レーサーとしてセンスがあるようだ。彼は最初からコーナーでの勝負は捨てている。あの最後のストレートに全てを託したのです」
輪島は初心者でありながらレースセンスをもつ剛の作戦を見抜いていた。
「よし!ストレートで一気におい上げろマックス!」
そして今、最終ストレートに差し掛かる。
予想通り、マックスTRFが凄まじいスピードでブラックセイバーに追いつく!大径タイヤの能力発揮だ!
「馬鹿な!」
「どうした!ストレートじゃ全然遅いじゃねぇか?」
ついに抜かれてしまうブラックセイバー。
「くそ!なんでかブラックセイバーの調子が悪い!」
ブラックセイバーはまったくスピードが上がらない。
2周目にかかり、再びコーナーやバンクでマックスTRFを抜こうと考えていたノブオだが、信じられない事にまったく追いつけない。
「おそらく彼を初心者と侮り、メンテナンスを怠ったんでしょう。彼はずっと同じ電池を使っている。しかもすぐコースに向かったからグリスアップもやってないはずだ」
「なるほど…」
「それにあの音。ギヤが傷んでいる。しかし彼はミニ四駆狩りに夢中になりすぎてそれにまったく気付かず、パーツ交換もたいしてやってないと見た」
轟は息を飲んだ。
「(音でそこまで分かるとは。さすがだね、輪島君は…)」
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