1.走れ!ミニ四駆

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「よし!そのままだ!マックス!」 再びストレート。もはやブラックセイバーには追いつく手段がなかった。 「まだだ!まだ1周ある!」 「そいつはどうかな。こっちは一番遠回りのレーンでスタートした。逆におまえは一番インコースでスタートしたが追い抜かれた」 実はノブオは最初で差をつけようと一番インコースでスタートさせたが、無意味な作戦だったようだ。 「レーンチェンジを重ねていきゃおまえはだんだん外側になっていく。スピードが落ちていくうえにそれじゃ勝ち目はねぇ」 「なっ…!初心者がいっちょ前に!」 剛の言葉通り、マックスTRFとブラックセイバーの差はもはや電池交換でもしない限り埋まらない領域となってしまっていた。 「すごい!マックスがだんだん引き離していくわ!」 「ブラックセイバーは今日ずっと同じ電池を使っていたのか!だからもうスピードが伸びないんだ!対してマックスの電池は買ったばかりの満タン!」 今、チェッカーが光る。 「ゴールだ!」 無論、先にゴールしたのはマックスTRF。 「ブラックセイバーもコーナーでは善戦したけど、最後のストレートが鬼門になったんだ!」 剛の完全勝利だった。 「くっ!や、やり直しだ!オレ様はハンデで電池交換しないでおいてやったんだ!」 「てめぇ、負けといて言い訳するのかよ!」 「そうよ!レース前にマシンをベストコンディションにしとくのはレーサーの義務でしょ!やらないやつが悪いのよ!」 駄々をこねるノブオ。このままでは素直にマシンを返す事はなさそうだった。 見かねたのか、轟と輪島が入ってくる。 「見事だったよ剛君」 「おっちゃん!見に来てたのか」 ザワつく。 「な、なぁあれって」 「ああ!輪島光聖(わじまこうせい)だ!」 「ここいらじゃ最強の天才レーサーだろ!?なんでこんなとこに」 他のレーサーは皆、一斉に輪島に注目する。 優仁子と兵平も目をキラキラさせ、まるで剛の勝利を忘れたかのように輪島を見た。 「えー!あれが本物の輪島光聖!?きゃーっ雑誌でしか見た事なーい!」 「まさかこんなとこで会えるなんて!」 「な、なんだおまえらまで。誰だか知らねぇがスカした野郎だな、いけすかねぇ」 剛は輪島にガンつけるが、輪島はまったく意に介さない。 「わ、輪島光聖…!?くっ、きょ、今日のとこは引き上げだ!」 そしてノブオもまた、輪島を見て態度を一変させる。 「待てよ。みんなのミニ四駆返せ!」 「ちっ…好きに持ってけ!」 なんとあっさりと今まで強奪したマシンの入った風呂敷を放置し、早歩きで出て行く。 風呂敷が広がりマシンがこぼれると、レーサー達が一斉に群がった。 「やった!」 「僕のマシン、返ってきたよ!」 「ありがとう、剛君!」 「(へへん!まさにヒーローだな。やっぱりオレって天才!)」 何だかんだで鼻高々に笑みを浮かべる剛。お調子者なとこが玉に瑕だ。 「それにしてもなんだあの野郎。さっさと引き上げやがったな」 「まぁ良かったじゃない。それにはじめてのレースで勝ったんだし!」 「へへ!まぁな!まぁオレにかかりゃミニ四駆なんか敵無しだぜ!天才レーサーデビューってか!」 そして剛の言葉は輪島の目の色を変えさせる。 「どんなヤツが挑んできたって返り討ちにしてやらぁ。何せ初心者とは思えないレースをしてみせたんだからな!」 「甘いね」 ついに剛に対し、輪島が口を出した。天才、輪島光聖が… なお、ここからはせっかくなので光聖表記に変えていく。 「確かに君は勝利した。だけどあくまで君ひとりで掴んだ勝利じゃない」 「な、なんだおまえ。因縁つける気か」 もちろん、剛も黙っていない。 「ミニ四駆なんか、と言っていたがミニ四駆の世界は奥が深い。君程度では今の実力じゃまったく通用しないと思うよ」 「てめぇ、言わせておけば!」 「ま、まぁまぁ君達」 いよいよ、ふたりの間にかかった火花は新たなレースへと発展する。 「ここいら最強だか何だか知らないが、だったら今ここでおまえに勝負を申し込むぜ!」 「なるほど。面白い」 初心者VS天才レーサーの対決だ。 「(こんな女みたいなナヨナヨしたヤツに、オレが負けるわけねぇぜ!)」 だが剛は勝つ気満々だった。 いや、負けるわけないとすら思っていた。自分こそ真の天才だと絶対の自信を持っていたからだ。 「それじゃ10分時間をくれないか。今からマシンをつくる。この場でつくったマシンでレースすれば初心者の君に対して何の文句もないだろう」 「…へっ、自分のマシンを持ち込んだところで結果は同じだぞ」 「それは楽しみだ。じゃあ僕はこれを使う」 光聖は商品棚からひとつ商品の箱を取り、それを見せてくる。 「!?そいつは旧型の…」 「僕らが使わなかったアバンテJr.だ!」 なんとそれは剛が断念したタイプ2シャーシのアバンテJr.であった。つまりかなりの旧型である。 「なめてんのか!そんなんでオレのマックスに勝てるわけねぇだろ!」 「(剛君、預けはしたけどあくまでそれは私のマシンなんだけど…)」 「このままじゃね。だから10分もらったのさ。では製作にとりかかるよ」 あっさりと隅のピットスペースへ向かう光聖。そんな彼を剛は鋭い眼光で睨む。 「(負けた時の言い訳にでもする気か。あんなんで勝てるわけねえじゃねぇか)」 「剛、何をぼさっとしてんの。あの輪島光聖が相手なんだからこっちも10分の間にセッティングかためなさいよ」 「そうだよ。いくらシャーシが新しくても慢心したらさっきのノブオ君みたいになるかもよ」 「わーってるよ。電池は新しいのに交換だ。で、グリスアップもちゃんとやる。でもセッティング自体はあのブラックセイバーに勝ったんだから問題ねぇはずだ」 「でも、コーナーじゃ全然遅かったじゃない」 「コーナー対策しすぎたら遅くなるだろ?タイヤもでかい方がスピードが乗った時すげぇ速くなる事はわかったし、あとは細かい調整で充分だぜ」 優仁子、兵平が助言するが、剛の中ではもうセッティングや調整箇所は決まっていた。 「けど相手は…」 「どんなにすげぇやつでも使うマシンがアレじゃマックスには勝てねぇさ。しかもたった10分で何が出来るんだよ。おそらくあいつは一旦あの旧型でオレの力量を試して、自分のマシンを出すつもりなんだろうぜ」
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