2.勝負!強敵ベルクカイザー

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2.勝負!強敵ベルクカイザー

「おっはよー!」 元気に挨拶するのは優仁子だった。いつもこんな感じで教室に入ってくる。 女子達とワイワイ挨拶を交わし、終わったら剛に憎まれ口を叩く。というのがいつもの流れだ。 だが、今日は少し違っていた。 「剛!?寝てんの!?」 剛は必ず夜更かしをしないで寝るのをルールにしており、いつもバッチリ目を覚ましていたのだがなぜか今日は机に伏せていたのだった。 そして優仁子の声を聞くと頭だけ起き上がる。 「うーす」 「わっ、寝ぼけてる」 「寝れなかったんだから仕方ないだろうがぁ…」 「寝れなかったってなんで」 「あの店のコースで吹っ飛ばない方法を考えてたら寝れなくてよ。しかもあのキザな輪島のヤローの顔が頭から離れなくてな…」 どうやら剛の中に光聖の姿は色濃く住み着いたらしく、リベンジに燃えていたところ眠気が吹っ飛んでしまったという事らしい。 「絶対あいつをぶっ倒す!絶対な!」 「さすがに無理だと思うけど…。そもそも前回はもろに手加減されたわけだしねぇ」 「うるせー!旧型マシンなんかでなめくさりやがって!あんにゃろー!」 「わかった、わかったからうるさいから静かにして!」 一連の会話が終わった後、優仁子は流れの変わる言葉を繰り出そうとする。 「てかさ、あんた」 「あ?」 「ちゃんと轟さんにマシン返すの?」 「…あ」 流れを変える事には成功したようだ… 放課後、剛は優仁子と共に四駆屋へ向かった。 「なんかあんた今日歩くの遅くない?」 「!別にそんな事ねーだろ」 「(ったく、本当はマシン返すの嫌なクセに…)」 やはり剛はマックスTRFに愛着がわいたらしい。 約束はしたが、土壇場になって轟に返すのが億劫になってきてしまったのだ。 いざ四駆屋の前に到着すると、半ば強引に優仁子が入口を開けた。思わず身構える剛。 「いらっしゃ〜い」 轟が挨拶してきた。 「轟さんこんにちは〜!」 「ど、ども…」 「さっ、早く入るわよ剛」 「お、押すな」 首を傾げる轟。 「どうしたんだい。なんか様子がおかしいね?」 「まったく剛は。男ならちゃんと約束守りなさいよ」 「う…」 剛がマックスTRFを取り出し、躊躇しながら前に出した事で轟は理解した。 なるほど、マシンを返しに。しかし本音は返したくないと… 「マシンを返しに来たとはちゃんと約束を守れる子なんだね剛くんは」 「そ、その…おっちゃん…」 「ではもらおうか。貴重なデータが手に入って良かったよ」 「…おっちゃん、ごめん」 俯く剛。 「オレ、やっぱり嫌だ。マックスを返したくない」 「剛!いい加減諦めなさいよ!違うマシンを買えばいいじゃない!まだ1日しか走らせてないし思い出とかも語るほどないでしょ!」 「そうだけど!でもオレにとってはこいつは紛れもなく相棒なんだよ!こいつの走りに惚れちまったんだ!オレ!」 「走りに惚れた…か」 マックスブレイカーTRFは確かに素で速いマシンだ。だが剛は決して最初から速いマシンだから欲しいと言っているわけではなかった。 さらにその先を見据えていた事を轟は見抜いていた。 「俺、多分あっさりノブオに勝ってそんで輪島にも勝ってたらそれこそミニ四駆を続けようなんて思わなかったと思うんだ。俺は絶対の自信があったのに輪島に勝てなかった。俺は俺とマックスのコンビなら誰にも負けないとさえ思ってたんだ」 「ところが君は負けた。君はあの負けによってむしろ火がついてしまったんだね。そしてマックスももう乗りかかった船だと」 「おっちゃん。わかってもらえないかもしれないけど俺、マックスで勝ちたいんだ。こいつをタイプ2シャーシなんかに負けさせちまったからより一層そう思ってるんだ」 剛がそう言うと、轟は一息ついた。 そして軽く笑みを浮かべながら口を開く。 「剛くん、もう一度言うよ。心で戦う事。これが重要なんだ」 「え…」 「君は今タイプ2シャーシなんかと言ったね。でもそれじゃダメなんだ。思い出して欲しい。君はノブオ君との対戦では間違いなく心で勝つ事が出来たんだ。ノブオ君は君を初心者と侮り、自分の強さに溺れた結果メンテナンスやセッティングを怠った事で足元をすくわれた。だけど逆に輪島くんとの対戦では君はタイプ2シャーシを侮ってセッティングミスを犯した」 指摘され、はっとする剛。 「君は僕の言葉の意味を理解していなかったんだ。油断と慢心、そういった要素が君をまず心で負けさせた。むしろ心の強さや誠実さこそがあの時君が唯一輪島くんに勝てたかもしれない要素だったのに、だ」 「お、俺は…勝負する前から負けてたのか…」 「君は慢心しながら戦えるほどまだ腕を上げてはいない。まぁあえてあの場でこういう助言をしなかったわけだが」 「…」 「でもあの負けと今の説教だけで理解は出来たみたいだね。それに君が輪島くんに勝ちたいという強い気持ちは本物だ」 轟は上げていた腕を下げた。 「剛くん、マックスをあと1日貸そう」 「1日…」 「その1日で再びあの店のコースを攻略してみせてくれ。君がノブオ君とレースした時のゴールタイムは29.4秒。これを越える事が出来れば正式に君にマックスを渡そう」
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