2.勝負!強敵ベルクカイザー

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「いいの轟さん!?」 「男に二言はないよ。勿論、剛くんが良ければだが…」 「ダメだ」 意外にも口を挟んだのは剛自身だった。 「おっちゃん、輪島のアバンテは何秒だったんだ?」 「26秒丁度だね」 「じゃあそれを越える。そしたらマックスを譲ってくれ」 「(驚いたな。私が理想としていた答えを返してくるとは。しかも何の躊躇もなく)」 あっけにとられる優仁子を後目に、轟はにこやかに笑みを浮かべ、頷く。 「わかった。ただし、セッティングは必ず君だけでするように」 「ああ!」 「明後日のこの時間にあの店で集合だ。その時に君の走りを見て判断するよ」 こうして轟と約束した剛は、早速あのホビーショップへ走った。優仁子もついてきたが、時間はすでに夕方。本音は早く帰りたかった。 だが、剛がまっすぐミニ四駆に向かう姿をどうしてか無視できなかったのだ。 「まったく、あいつがあんなにも夢中になるなんてなぁ」 「でも優仁子さん何だかんだでついてきてるんだ」 「まっ、引き込んだのはあたしだしね。それにしても兵平、ノブオが来なくなったらあっさり来てるじゃないの」 「うっ…でもこの長谷川ホビーショップはこまめにレイアウトが変わるからデータ採取に最適なんだよ」 光聖に負けたコース。 剛は誰の助言も貰わずに挑んでいた。 「いけ!マックス!」 ガシャッ! 「いっ!?」 …しかし、また同じ場所でコースアウトする。 コースアウトしたら再びセッティングに戻る。 これを繰り返していた。 「あーあ、さっきから同じ事の繰り返しじゃない」 「いや、いいんだよあれで」 「え?」 「何度も走らせて最高のセッティングを見つけ出す。これがミニ四駆の一番難しいところであって一番面白いところなんだ。例え走りきれたとしてももっと速く走らせたくなってセッティングする」 手先が器用な剛はセッティングを済ませ、すぐにコースに向かう。それを微笑ましく見ている兵平。 「でも速くしたらコースアウトするようになってしまった。だからまたセッティングし直す。この繰り返しこそが大事なんだ。そして剛くん自身、徐々にその楽しさがわかってきたんじゃないかな」 「…確かに」 ──あいつ、いい顔してる… いつの間にか剛は楽しそうにこの動作を繰り返していた。それは彼に間違いなくミニ四駆レーサーのセンスがあるからだ。 人によっては面倒で嫌になる作業かもしれない。しかしこれを全力で楽しめる時点で剛は立派なレーサーなのである。 「思い切ってウェイト外したけど、やっぱダメか?」 ジャンプ対策でウェイトを外した剛。 祈るようにマックスの走りを見る。 「!」 シュパッ!とキレの良いカーブを見せるマックスTRF。そのまま難関の連続コーナーを越える! 「ウェイト外したらカーブをスムーズに抜けた!?」 「重さが減ったんだ。剛くん、もしかしてウェイト結構付けてた?」 「ああ。8gのを2つな!」 「多分重すぎたんだよ」 しかし、最終セクションの連続バンクで着地しきれず、はじき出されるマックスTRF。 剛は慌てて拾いに行き、兵平に顔を向けた。 「でもさ、重くなりゃその分安定するだろ?」 「一概にはそう言えないよ。慣性の法則でコーナー時には負荷が加わるし、重い分加速が悪くなる」 首を傾げる剛。 「慣性の法則??」 「まぁつまり曲がる時にすごい衝撃が曲がる方向にかかるって考えればいいよ」 「そっか!そのまま外に向かってマシンが飛んでいこうとしちゃうわけね」 「なんかよくわかんねーけどつまりマシンは軽い方がいいって事か」 「うーん、でもやっぱりコースによってはあえて重くする方が良いコースもあるから何とも…」 「でもわかってきたぜ。もうちょっとだ。もうちょっとでこのコースを走り切れる!」 再びセッティングに戻る剛。 「この分なら走り切る事は出来そうだね」 「そうね。今日中に良いセッティングを見つけられればかなり余裕ができるし!」 「これなら剛くんが正式にマックスTRFの持ち主になれる。なんかちょっと羨ましいなぁ」 マックスTRFが走り出す。 タイヤは大径のままだが、ローラーとモーターは変更した。さらにギヤ比を変えてウェイトも軽い物に変更したのだ。 「いけ!もうちょっとだ!」 それまでで最高のセッティングだった。 間違いなくノブオを倒した時より速い。 「よっしゃぁぁぁ!!」 そうして走りきったマックスTRF。タイムは惜しくも27.1秒だが、少なくとも光聖のアバンテのタイムは視野に入ってきた。 いつの間にか熱く見守っていた兵平と優仁子はスっと肩の荷を下ろしたかのように力を抜く。 「いけた…」 「う、うん。12回目でようやく走りきって、しかもなかなかの好タイム!やったね、剛くん!」 今日はさすがにもう遅くなってしまったため、ここで帰る事にした。 しかし、確実に手応えを感じた剛は満足して帰路につく。 「明日が楽しみだぜ。絶対、今以上のセッティングにしてみせる!」
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