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ところが次の日。
事件は起きた。
「う、嘘だろ…」
なんと、コースレイアウトが変わっていたのだ。
それまではバンクやコーナーが多めのテクニカルコースだったのが、ストレートばかりの超フラットなコースになっていたのだ。
「昨日あんなに頑張ったのに…」
「昨日レイアウトがよく変わるとは言ったけどまさかこのタイミングで変わるなんて…」
「このコースじゃぁ昨日までのセッティング通じないんじゃないの?」
優仁子の疑問に兵平が頷く。
「昨日とは正反対のコースだし、昨日のままのセッティングじゃ遅いかもしれない」
「くっそー…なんてこった」
「幸い、まだ今日がある。今日のうちにセッティングを極めよう」
「で、でもこのレイアウトじゃ輪島くんの26秒ってタイムは当てはまらないし、条件が台無しになっちゃったじゃない。轟さんにこの事を伝えた方がいいと思うわ」
優仁子は慌てて店を出て行った。
入れ替わるようにサングラスをかけた店員がコース部屋に入ってきて、箒で床をはく。
「おっちゃん!なんでレイアウト変えたんだよ!」
「ん?ああ」
珍しく店員(マダオ)が口を開いた。
「うちはレイアウトは2週間で変えるルールなんだよ。昨日で2週間がちょうど終わったから変えたんだ」
「頼む、明日だけまた戻してくれ」
「あー?そんな事できるわけないだろ。面倒だし。前のレイアウト覚えてないし」
「でもこの剛くんはミニ四駆狩りを退治までしてくれたんですよ。僕らも手伝いますから何とかレイアウトを変えていただけませんか!?」
兵平の言葉を聞いて、むしろ店員は面白くなさげな顔をして舌打ちする。
「あー、君がミニ四駆狩りを退治しちまったのか」
「は?しちまったってのはどういう意味だよ」
「いや別に」
店員は箒を持ったまま背を向け、入口に向かっていく。
「(余計な事しやがって。ミニ四駆狩りのおかげでマシンやパーツを買い直す奴らがいたのによ。こっちとしちゃ都合のいい話だったってのに)」
なんと店員はわざとミニ四駆狩りを黙認していたのだ。まさにダメなおっさんである。
「とにかく、レイアウトはわざわざ変えないからな。文句があるなら来なくていいぞ」
そう言って店員は再びレジに戻り、テレビを見始めてしまった。
拳を握りしめるも、剛は何も言えなかった。
「剛くん、こうなったら諦めてこのコースで最速を目指そう?轟さんもこの事情ならさすがに分かってくれるよ」
「…でも、俺やっぱり昨日のコースで走りたかった」
「剛くん…」
なんと剛はこのストレートコースを無視し、昨日のセッティングを煮詰め始めた。
「剛くん!気持ちは分かるけど、もう無いコースのセッティングをしたところで時間の無駄だよ!明日には轟さんを納得させる走りを見せなきゃならないんだよ!?」
「嫌だ!俺は今でも輪島と勝負してるんだ!」
「今でも…」
「昨日のタイムを考えりゃ俺はまた輪島に負けた事になる。だけど俺はあいつを越える為にセッティングするのが楽しいんだ!今更やめたくねぇ!」
剛は持っていたドライバーをさらに強く握りしめる。
「俺さ、少なくとも工作をこんなに熱入れてやった事なんか無かった。プラモデルくらいはつくった事あったけど、つくるだけで満足してた。でもミニ四駆は違うんだよ。知識がないまま始めたからとにかく試しながらやらなきゃならねぇ。でもよ、今の俺にはこれがどうしようもなく充実した時間なんだよ」
「で、でもそれならこのコースでだって…」
「俺は輪島とだけじゃねぇ。轟のおっちゃんとも勝負してるんだ。おっちゃんは大切なマシンを俺に賭けてくれた。そのうえ俺が見失ってた事まで教えてくれた。俺はおっちゃんの気持ちに応えないとどうしたって気が済まないんだよ!」
すると…
「いやぁ、なんだか照れるね」
そこには照れくさそうにする轟がいた。
「おっちゃん…」
「優仁子ちゃんから聞いたよ。レイアウトが変わってしまったそうだね」
轟はマックスTRFを見る。
そして暖かな笑みを浮かべた。
「(よくセッティング出来ている。見れば分かる。もはやマックスは剛くんのパートナーであり、彼の心なんだ。この短期間でちゃんと成長出来ている)」
「おっちゃん、俺やっぱりあのレイアウトで…」
「正直、私としてはもう君は合格にしてあげてもいい。だけどやっぱりあのコースで走り切らないと納得出来ないだろう?」
剛はすぐに頷く。
「わかった。剛くん、それに兵平くんもついてきてくれ。四駆屋に行こう」
「四駆屋に?」
剛と兵平は顔を見合わせる。四駆屋にはコースなどないはず。
しかし、轟についていくしか術がないふたりは黙ってついていく事にした。
「あ!轟さん」
四駆屋店内では優仁子が待っていた。
「待たせたね優仁子ちゃん」
「おっちゃん、一体…」
「まぁ見ててよ」
轟がレジから何かのリモコンを取り出し、ボタンを押す。
すると隅の壁が開き、エレベーターが顕になった。さすがにこれには剛達は驚く。
「これは地下へのエレベーターなんだ」
「地下!?」
「うちはコースがない店って事になってるけど、実はあるんだ。一部のお客さんにだけ公開しているんだよ」
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