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「あー!超お腹減ったぜ☆」
冒頭からこんな台詞を放ったこの少年こそがこの物語の主人公である。谷田部小学校に通うこの少年、いわゆるスポーツの天才肌で運動神経抜群のスポーツマンだった。
彼の名は金城剛。小学5年生だ。
「今日も給食を賭けて俺と50メートル走で勝負するヤツいないかー?」
「冗談はやめろよ剛。おまえの脚の速さは誰でも知ってるぜ?」
「そうそう。ところで今日はどこの部活の助っ人やるんだよ?助っ人して試合に勝てば500円、助っ人だけでも200円だっけ?」
クラスメートが身構えつつも話題を逸らそうとしてくる。
剛はお調子者な性格なので自らの有能さを示すこの話題には飛びついてしまうわけだが。
「その通りさ!なんたって俺天才だからな!小学校で出来るバイトっていやぁこんくらいなもんよ」
「ボロい儲けだよな。いくらくらい貯まったんだ?」
「まだまだ6000円ちょっとってとこだな。次はどのRPGクリアしようかねぇ」
金城剛はスポーツマン。しかしちゃんと娯楽も楽しむ。特にテレビゲームはどんなジャンルも一定以上の才覚を見せる。
苦手なのは勉強くらい。基本的に授業は真面目に受けない方だった。しかしやれば出来る。
言ってしまえば、何をやっても強い。それが金城剛という少年であり、周囲からの共通認識だった。
「っつってもRPGも飽きちまったしなぁ」
逆に、彼は今全力で打ち込める事がなかった。
何をやっても強いという事は、飽きるのが早いという事。表裏一体の悩み。贅沢な悩みではあるが解決も出来ない。そしてそんな事誰かに言える悩みでもない。
そんな彼は今日は放課後何をしようか漠然と考えていた。
「おーし!じゃあデザートのプリン賭けようぜ!」
「今日は負けねーぞー!」
そんな時、教室の隅から賭け事を楽しむ声がした。
「なんだなんだぁ?俺も混ぜろよ!」
剛がそう言って乱入しようとした時、剛の目には彼らが手にする「何か」が見えた。
そう。それはミニ四駆であった。
「それって確か今流行りのミニ四駆とかいうやつか?」
「そうだけど、剛知らないのか?」
「ああ。やった事ねぇし、触った事ねぇからな」
きっぱりと言ってのける剛に驚く一同。
とうの剛は興味なさげという態度だ。ミニ四駆など下らないオモチャくらいに考えているのである。
「それなら混ぜれないよ。休み時間中にみんなでレースするんだ」
「それで勝ったやつがプリンをゲットできるってわけさ」
「おいおい、オモチャのレースで決めるのかよ。それなら普通に走ってレースすればいいじゃねぇか」
当然、周囲に悪気なくもムカつく言い方をしてしまう。
そんな彼を見かねたか、ひとりの少女が剛に声をかける。
「バーカ、ミニ四駆のレースだって走るのと同じくらい熱いわよ。それに単純なオモチャと違って難しいし奥が深いのよ」
「んだよ優仁子。ミニ四駆に詳しいみたいじゃねぇか。まさかやってんのか?女なのに」
彼女は麻木優仁子。剛の幼なじみである。いつも剛とは憎まれ口を叩き合う仲。小学生にして金髪ツインテールであるが気にしてはいけない。まぁ言うなればロリになった弥海砂だ。
「最近は女の子のミニ四レーサーも多いのよ。ほんっと世間の流れに疎いんだから」
「だいたいおまえ不器用じゃねぇか。料理も下手だし図工なんかいつも紙粘土でわけのわからないムンクの叫びつくってるだろ。そんなおまえがそれ作れるのかよ?」
「うっ。確かにあたしは不器用だけど、四駆屋の店長さんに手伝ってもらって、ちゃんと作り上げたもん」
「四駆屋?」
首を傾げる剛に、優仁子はポケットからぐしゃぐしゃになった紙を取り出し、手渡す。
相変わらず管理能力ゼロだなと呆れる剛だが、手先も器用なのかぐしゃぐしゃの紙をスムーズに破る事なく広げてみせた。
「ふーん、3ヶ月前にオープンしたミニ四駆を主に取り扱う店、か」
「そこのおじさんがめっちゃ優しいの。まっ、あたしが可愛いからほっとけないのかもしれないけど」
「はいはい。そのおっさんも商売なんだから客に愛想良くくらいするだろーぜ。ったく、わりーけどオレは何を言われようがそんなオモチャなんざ興味ねーよ」
剛はあらためて渡されたポスターを同じようにぐしゃぐしゃにし、指で弾いて優仁子につっ返すのだった。
本当に器用だ。そして指先にも確かな力がある。
そして…
「…ふーん」
「?」
レースを始める他の生徒達。そのレースを少し見ると、くるりと向きを変えて廊下へ向かっていく。
「多分、裕一の車が勝つな。あのままなら」
「え」
そう言って剛は教室を後にした。
「やったぜ!プリンゲットー!」
叫んだのは裕一だった。
剛は確かな観察眼も持ち合わせていたのである。
「やっぱりこのストレート主体のレース体形ならレブチューンモーターのが有利だな」
「ずりーぞ!オレらがトルクチューンモーターしかないのわかっててコースつくったな!?」
「そういや裕一のマシンだけタイヤが大径だな!くっそー、セッティングする時間がなかったのが敗因だぜ」
今のレースについて語る生徒達。しかし、ミニ四駆についてまったく知らない剛なら間違いなくちんぷんかんぷんな話のはず。
ただ驚くばかりの優仁子。
「あいつ、ミニ四駆やればいいのに。案外才能ありそうじゃん。もったいない」
なんだかんだで剛の事が気になるのだ。
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