12人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後。
「さてと、今日は普通にまっすぐ帰るかぁ」
ランドセルを片肩にだけひっかけ、悠々と校門から出ようとする剛。鼻歌交じりで足並みが軽く、悩みとは無縁のようだ。
しかし、そんな剛の腕をいきなり掴む者がいた。
「剛くぅん!」
「!?」
残念ながら男子であった。
「剛君!ヘルプミー!」
「なんだよ、兵平か」
彼の名は兵平。年齢より小柄で下手したら女子より小さい。弱々しくて喧嘩などもってのほかであるタイプだ。
そんな彼は剛によく泣きついてくるのだが、剛もよく報酬があるならと引き受けていた。
「どうした?またいじめか?それともスポーツの助っ人かよ?」
「そ、それが。剛君に倒して欲しい相手がいて」
「へっ。誰か知らんがそいつは不運だな。オレが相手じゃすぐに地面にへばりつくだろうぜ。まぁ助け賃は500円ってとこかな?」
コキコキと腕を鳴らす剛。
飽きてすぐやめたがボクシングや空手の経験もあったので喧嘩に対する自信もあった。
その自信に満ちた様子を見て目を輝かせた兵平は、半ば強引に剛の腕を引っ張る。
「お願いします剛君!」
「いてて!おまえこんな力あるなら自分でやれよ…」
10分後、2人はホビーショップの前に立っていた。
「え?」
場所はどうやらここらしい。事態を把握出来ていない剛は、キョロキョロと辺りを見回す。
「おい兵平。どういう」
「おかしいな、今日は来ないのかな…」
どうやら最近出来たばかりのホビーショップらしい。
外には結構でかいミニ四駆のコースが常設してあり、フラットではあるがカーブもいくらかある面白そうなコースだ。おそらく初心者でも無理なく走らせられる。
しかし不思議な事に客の入りがあまり芳しくないようだ。コースには誰もいない。
「変だな。ここはポスターを見ると優仁子が見せた四駆屋より後にできた店みたいじゃねぇか。なのに誰もいねぇのか?っつーより、客はいるのにコースを走らせようか迷ってる感じか?」
「それだけじゃないよ…。マシンのない子もいると思う」
「なんだ、オレと同じく傍観者か?」
「違うよ。それは…」
その時だった。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ!今日も来たぜー!」
「ン…」
なんか柄の悪そうな大柄な体型の男がやってきたのだった。
「んー?なんだ、誰もコース走らせてねーのか?ははっ、ありがてぇな。今日は新しいセッティングを試したくてウズウズしてたんだ。思う存分試走させてやるからな、オレの最強マシン!」
大柄な男はピットボックスをコース付近のピットスペースに置き、そこからマシンを取り出した。
彼のマシンは黒いミニ四駆。マシン自体は大事にしているのか、ピカピカに磨いてある。
「今日は一昨日手に入れたローラーとモーターを試してみるか」
そんな彼のその言葉と、取り出したパーツに目の色を変えた男子がいた。その男子はマシンがないようで、ただ見ているだけだ。
そして何やらヒソヒソと話をしている子達も。だが大柄な男がチラッと彼らに目をやると、彼らは慌てて話すのをやめてしまった。
何となく異変を察した剛は、呆れたような表情で兵平を見る。
「まさかオレに倒して欲しい相手っていうのは」
「う、うん。彼だよ。彼は大山ノブオっていって、最近このあたりを荒らし回ってるミニ四レーサーなんだ」
「…あのなぁ。あいつを叩きのめせっていうからにはなんか理由があるんだろ?」
「それは…」
大柄な男、ノブオはニヤリと笑みを浮かべ、ピットボックスに手をやる。
そこから他のマシンを取り出し、乱暴にホイールを外した。
「このホイールも試すか。他はクソパーツばっかだが!」
なんとまるでゴミのようにそのマシンを投げる!
「あぁっ!僕のアスチュートJr.が!」
「!?」
兵平はそう言うと必死に跳び、投げられたマシンをキャッチした。しかし体勢が悪く、転がってしまう。
腕を少し擦りむいたようだが、マシンは無事であった。
「兵平!おまえそのマシン…」
「…レースに負けて彼に取られたんだ」
「そういう事だったのか。だからこの店に来てる連中、走らせたくても走らせられなかったんだな」
どうやらノブオは強引にレースを挑んでは負かした相手からマシンを強奪してしまうらしい。さっきから彼が装着しようとしていたパーツは強奪したマシンが装着していたパーツだったのだ。
彼はタダでパーツを集めるために最近出来たばかりのこの店を狩場に選び、元々の大柄さと柄の悪さも使ってまんまとパーツを集めていたのである。
「いやー、近所に良い店が出来てくれて良かったぜ。オレのマシンがさらに強化出来ちまうんだからな。しかもタダで!」
中には泣き出してしまう子もいた。
マシンが無事な子も怖くてレースが出来ず、もはやこの店に来なくなった子もいるようだ。
「オレが関東大会で優勝する日も近いぜ。なぁブラックセイバー!」
※このマシンは富野鷽通季さんが掲載していたマシンで、許可をもらい掲載させていただきました
最初のコメントを投稿しよう!