1.走れ!ミニ四駆

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「野郎…。オレが一番ムカつくタイプだぜ」 正義感の強い剛は、まったく怯むことなくノブオに向かっていった。 「おいてめぇ!さっきから黙って聞いてりゃ好き勝手やりやがって!ミニ四駆ってのは負けたら相手からミニ四駆を奪うってルールはねぇはずだろ」 「ん?なんだおまえ」 ノブオは睨みをきかせながら立ち上がり、腕を鳴らす。 「ルールはオレが決めてんだよ。まあ言うなればノブオスペシャルルールだ。オレとレースするからにはこのルールでやってもらう」 「んだと〜」 「フン、ようはまた正義感ぶったやつが無謀にもオレに挑もうってわけだ。これまでも4人くらいオレにこの店に来ない事を条件にレースを挑んできたがことごとく返り討ちにしてやったぜ」 愛機ブラックセイバーを手に取り、見せつけるように前に出す。ノブオはこういった挑戦者を叩きのめして返り討ちにする事に喜びを感じるのか、やる気全開だ。 「だが4っていう数字は不吉だからな。ちょうど不満だったところだ。おまえで返り討ち人数はついに5人目。いいぜ、早速始めよう。ルールはノブオスペシャルルールだ!」 「ねぇよ」 「…は?」 不穏な空気が流れる。 「持ってねぇよミニ四駆なんか」 そう言うとボクシングの構えをとり、ステップを踏み出す剛。 「さぁ始めようぜ」 「…おまえまさか暴力で解決する気か?てか今時ミニ四駆も持ってないのか」 チラッと兵平を見る剛。 兵平は目を逸らす。彼としては剛がノブオを排除してくれれば形はどうでも良かったのだが、確かにいきなり暴力に訴えるのはまずい。 ノブオも確かにやり方は卑劣だが、あくまでレースに勝つ事でマシンを強奪しているのだ。決して誰にも暴力をふるってはいなかった。 「フン、話にならんな。ここはミニ四駆をやるところだ。暴力がしたいならジムでも行ってろ」 「ぐっ…!悪役のくせにもっともなこと言いやがって!」 「だいたいミニ四駆も持ってないとかわざわざここに何しに来たんだか。ぐふふ、見ろ、そいつらの落胆した顔を」 振り返ると、傍観していたレーサー達の落胆ぷりがよく見えた。 彼らからしたらもしかしてヒーローが現れたんじゃ!という期待があったのだ。しかし蓋を開けてみればミニ四駆も持っていない場違いな人間だったのである。 「さぁかーえーれ!かーえーれ!」 「ぐぐ…」 「ひゃひゃひゃひゃひゃ!さーてと、オレ様に挑戦するやつはいねぇが〜??ン、おまえなかなか良さげなマシン持ってるなぁ」 最早剛の事は完全に無視し、ノブオは獲物を発見する。よく状況を飲み込めていないのか、ミニ四駆をその手に持ちながら常設コースに入ってきてしまったようだ。 いきなり近づいてきたノブオにさすがに竦む大人しそうな少年。 「ま、待って!その子はずっとミニ四駆がやりたいって店に見学に来てた子なんだ」 「昨日の誕生日にやっと買ってもらったらしいんだ!だから見逃してあげて!」 他の少年が庇おうとするが、それをノブオは一笑に付す。 「はぁ?オレ様はただレースに誘おうとしてるだけだぜ。しかも初心者なら尚更上級者であるこのオレが色々手解きしてやった方がいいだろ」 「その言葉は前にそのままそっくり聞いたよ!でも勝ったらマシンを取り上げたじゃないか!」 「うるせぇんだよ!」 ノブオが怒鳴り、その場が静まり返った。 ビビってしまった少年達は後退りし、結果的に初心者の少年を見捨ててしまう。 「くそ、だいたいこんな時に店長は何やってんだよ」 剛がチラッと店の中を見ると、やる気のなさそーな無精髭とサングラスが特徴の男がレジにいた。が、テレビに夢中だ。 この人は通称マダオと呼ばれており、常設コースを無料で使わせてくれたり他の店よりややマシンやパーツの値段が安いためサービスは悪くないのだが、やる気がなくて態度も悪かった。 そんなんだからか、こういったトラブルに関してもまったく関与しないのである。 「フン、初心者のくせに生意気にもスーパーTZシャーシのマシン使おうとしてるのか。よし、ブラックセイバーで相手になるぜぇ」 「おい!ちょっと待て!」 仕方なく、それに見て見ぬふりもできないため、剛は再びノブオの前に立ちはだかった。 「なんだおまえまだいたのか。さっさと帰って家の壁に向かってシャドーボクシングでもしてろ。揺れる小舟の上で足腰でも鍛えたらどうだ?」 「やかましい!おまえの相手はオレだろうが。そいつの前にまずオレと勝負しろ!」 「おまえオレ様の話を聞いていなかったのか。ここはミニ四駆をやる場所なんだよ。いくらオレ様が花山薫に似てるからって喧嘩を挑んでくるなんざ場違いにもほどがあるぜ」 「…だからミニ四駆で勝負してやるって言ってんだよ」
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