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「…なんだって?」
「ミニ四駆で勝負だってんだよ」
「…ぷッ」
その場で腹を抱え、笑い出すノブオ。
周囲の少年達も即座に無謀だと思い、剛を見る。
「おまえミニ四駆に触った事もないんだろ?つまり初心者ってわけだ。そんなおまえが上級者のオレ様に勝てると思ってんのか?さっきも言ったが腕に自信のある奴等がオレ様に挑んでは負けていったんだ。初心者じゃなく、確かな実力者達がな!」
「そんなもんやってみなくちゃ分かんねーだろ!」
「まあいい、面白い。最近弱いレーサーばかりでつまらないと思っていたがおまえは面白い!馬鹿すぎてな!そこまで言うなら勝負してやろう」
初心者の少年が剛の後ろに隠れる。剛の方を見ると、剛は真っ直ぐノブオの方に睨みをきかせていた。
「…だがな、おまえマシンはどうするつもりだ?」
「あっ…」
だが、初心者の少年をはじめとし、みんなバタバタとずっこける。
「兵平!悪いがマシン貸してくれ」
「僕のアスチュートはパーツが取られてるから今は走らないよ〜」
「じゃあ他に誰か…」
振り返ると、皆俯いていた。
気合いだけは確かに充分だ。だが誰もが剛が勝つとは思っていなかった。まだマシンを取り上げられていないレーサー達も、マシンを出し渋る。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ!残念だったなぁ。誰も貸してくれないぞ!まぁ何なら店で買って組み立てればいいじゃないか。待ってやってもいいぞ」
「剛君、ダメだ!素組みしたマシンじゃ勝てるわけないよ!それに…」
店のミニ四駆コーナーを見ると、ほとんどマシンが売っていなかった。売っているのはかなり型が古いタイプ2シャーシやタイプ3シャーシのマシンばかり。確かに古いシャーシでも戦えなくもないが初心者の剛どころか周りの経験者達ですらタイプ系シャーシでブラックセイバーに勝てるセッティングなどできなかった。
最近はミニ四駆ブームであり、売り切れが続出していたのである。
「くっそー…品揃えの悪い店だな」
「それにM4チップも売ってない。最近のミニ四駆はあれをつける事が義務付けられてるんだ。単純に性能も上がるし」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ残念だったな。まぁそのタイプ2シャーシのアバンテでも出来なくはないだろ。さぁ10分やるから準備しろ」
挑発的な態度のノブオ。対する剛は黙ったままだ。
「どうした?さっさと用意しろよ」
「…」
さすがに初心者と言えど、古い方が不利な事は分かる。学校でも、そしてこの店でもタイプ系のシャーシを使っているレーサーなどいなかった。ひとりを除いては。
兵平が持っているアスチュートはシャーシがタイプ3だったのだ。つまりろくに改造していないタイプ系シャーシでは歯が立たないであろう事は火を見るより明らかなのである。
「ちょっと待ってろ!必ずここに戻ってくる!」
「つ、剛君!?」
剛は急に走り出した。店から勢いよく飛び出していってしまう。慌てて追走する兵平。
「フン、いくらヤツが初心者でも本気でオレ様に勝てると思ってるわけがない。だが肝心のマシンが無いとなれば言い訳になるからな。逃げ出したってとこか」
もはや逃げ出したと決めつけたノブオは高笑いするのであった。
「さぁて、じゃあレースをはじめようかぁ」
「うっ…」
ノブオは初心者の少年に詰め寄った。
一方、剛とそれを追う兵平。兵平が剛に追いつけるわけがなかったが、信号待ちでようやく声をかけれそうな距離になる。
「ま、待ってよ剛君!一体どうしたんだい?」
その場に倒れ込みそうなほど疲れている兵平だが、剛は汗ひとつかいてはいなかった。
「兵平来てたのか。実は今日優仁子のやつにおすすめのショップを紹介されてよ。確かこの近くだったと思うんだよ」
「えっ、剛君記憶力いいね…。でもちゃんとあってるの?」
「ああ、確かな。この辺よく行くスポーツ用品店の近くだからよく覚えてんだよ」
そのショップ、四駆屋はコースもなく、こじんまりとした店だった。
「うーむ、新しいマイナーチェンジマシンのデザインはこんなところかな。通常版と違って大径タイヤに変えてみたが…」
ブツブツ言っているメガネのおじさん。どうやら店長らしい。
彼がいじっているミニ四駆はまだピカピカであった。綺麗に肉抜きされた白いボディ。カウルが無いが空力の強そうなフォルム。そしてシャーシはまだこの世界では一般販売されていないスーパーXシャーシである。
「轟さん!またマシン見てもらえますかぁ?」
「おぉ、優仁子ちゃんか。いらっしゃい」
店に優仁子が入ってくる。どうやら他にお客さんはいないようだ。店長の苗字はどうやら轟というらしい。
「あっ、それ確かミニ四駆社にデザインを頼まれてた新型の?」
「ははは、デザインはあくまでももうされてるよ。僕が頼まれたのはマイナーチェンジ版のデザインだからね。とりあえず肉抜きしておけばミニ四駆社の人は喜んでくれるから」
この世界ではそのまんまな名前だが、ミニ四駆社がミニ四駆を開発して販売している。つまりリアルでいうTAMIYAである。
「マックスブレイカーのマイナーチェンジ版だから…そうだな、マックスブレイカーTRFってとこかな」
轟はその筋では名の知れたデザイナーらしく、よくミニ四駆のデザインを依頼されているようだ。そして今回は近日販売予定のマックスブレイカーというスーパーXシャーシ装備のマシンのマイナーチェンジ版の製作を依頼されていた。
そしていよいよそれが完成したところだった。
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