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そんな時。静かな店内に轟音が響いた。
「!?」
剛と兵平が勢いよくドアを開けて入ってきたのだ。
「剛!?」
「ん?優仁子ちゃん知り合い?」
「腐れ縁の幼なじみです」
剛は轟と優仁子には目もくれず、早歩きで店内を徘徊していた。さすがにほっとけず、優仁子が近寄っていく。
「ちょっと剛、何だかんだ言いながら来たんじゃない」
「優仁子いたのか!」
「いたのかですって!?」
「ちょうどいいや!ミニ四駆探してるんだけど無いか!?なるたけ速いやつがいいんだけどよ…」
そう言って徘徊し続ける剛だが同じ場所をぐるぐる回っていた。何せ店内は狭く、品揃えも悪かったからである。
「君、すまない。今ミニ四駆の本体は売り切れてしまっているんだよ。最近、買い占めて行った人がいてね…。元々少なかったんだが」
「マジかよ…!結局手に入らないってのか…」
剛は力なく、その場に腰を下ろしてしまう。
「そうだ!優仁子、マシン貸してくれ!少なくともタイプ系シャーシじゃないマシン持ってるだろ!?」
「えぇっ!何よいきなり。私のマシンはこの子だけど…」
優仁子が見せてきたマシンはスピンコブラ。ピンクにカラーリングされ、リボンをつけた可愛らしい見た目だった。それを見て兵平はため息をつく。
「剛君、優仁子さんのマシンじゃレースは出来ないよ。これはリアルミニ四駆って言って、走らないんだ。飾るためのミニ四駆なんだよ」
「走らないミニ四駆!?」
「私、今日は轟さんにデザインを見てもらいたくて。走らせる用のマシンは持ってきてないのよ」
「くっそー!このままじゃノブオの野郎に好き放題されちまう…!」
途方に暮れるふたり。
しかし、剛の目には轟が持つマックスTRFの姿がうつっていた。
「おっちゃん!頼む!そのマシン貸してくれ!」
「えっ、このマシンを?」
なんと剛は土下座までしていた。
「頼む!どうしても必要なんだ」
剛が土下座するのを見て優仁子も兵平も青ざめるほどに驚く。
「プライドの高い剛があんな事するなんて…」
「剛君は本気だ。どうしてもノブオ君と勝負したいんだ」
剛の土下座。いや、それよりも彼の目。
轟は察した。今剛にはマシンが必要なのだと。
「…仕方ない。少しの間だけ預けるよ」
「本当か!?」
「い、いいの轟さん!?それ大事なマシンなんでしょ!?」
「デザインはもう撮影してあるし、データはミニ四駆社に送ってあるさ。ただ、まだ満足に走らせていないからね。こちらとしても案外データ収集に大助かりかもしれない」
そう言うと轟は剛にマックスブレイカーTRFを差し出す。しかし、差し出した直後に素早く真上に上げて…
「ただしこれだけは言っておくよ。マシンの性能に頼りきらずに、ちゃんと心で戦うこと。いいね?」
これは轟からの最後の確認であった。大切なマシンなのは間違いなく、簡単には渡せない。だから剛の返答次第では渡さないつもりだった。
だが、剛の目に曇りはなかった。まっすぐな眼差しに、自然と轟の手も下がりマシンは剛の手に渡る。
「わかった!サンキューおっちゃん」
「ちゃんと返してね」
「あっ、待ってよ、あたしも行く!」
3人は店を飛び出して行った。
「マックスブレイカーTRFは確かな性能があるはず。最新のシャーシだから他のマシンと比較してどうなのか。気にはなるな。少しの間クローズにするか」
轟も、久々に血が熱くなるのを感じるのだった。
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