1.走れ!ミニ四駆

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「ひゃひゃひゃひゃひゃ!可哀想だなおまえのマシン。せっかく3回勝負にしてやったのに1度も勝てないなんてよ!」 一方、レース場ではノブオがまたしても傍若無人な振る舞いを続けていた。 「まぁレーサーがヘボじゃマシンもポテンシャルを発揮できないんだよな。よし、こいつはオレ様が責任もってもらってやる」 「そんな!」 先程の初心者レーサーからマシンを無理やり奪っていたのだ。 「返してよ!僕のディオスパーダ!」 「返して欲しけりゃまたマシンを用意してオレ様に勝てばいいんだよ。なんでこんな簡単な事に気付かないんだ?リベンジならいつでも受けてやるぞ?」 「今だって強引に勝負を挑まれて」 「うるせえんだよ!」 ノブオがその辺にあったゴミ箱を蹴飛ばす。 もちろんこれも見事なマナー違反なので真似してはいけないぞ! 「オレ様はあくまで勝負を挑んだだけなんだよ。受けるか受けないかは自由だろ?受けちまった時点でそいつはおまえの責任なんだよ」 手に入れたディオスパーダを勝手に分解し、パーツを漁るノブオ。 「さぁて、どれどれ。…ちっ、所詮素組みの素人マシンか。使えねーな。まぁブラックセイバーの練習台にでもするか」 「おい!」 「…ン?」 好き放題やっていたノブオだが、そこに現れたのは剛達3人であった。 「待たせたなノブオ。勝負してもらおうか」 「おまえ!逃げたんじゃなかったのか」 「へっ!オレを見くびるなよ。テメェみてぇな弱い者いじめしか出来ないチキン野郎から逃げる必要なんかねーんだよ」 「オレ様がチキン野郎だと!?」 「弱虫って可愛く言い換えてもいいぜ」 どうやら剛の挑発はきいたらしく、顔を真っ赤にして近付いてくるノブオの威圧感はなかなかのものだ。剛の両脇の優仁子と兵平はたまらず2歩下がる。 一方、剛は先程の初心者レーサーが泣き崩れているのを見て青筋を立てた。 「…てめぇ、オレとレースしてからあの子とレースする約束だったはずだろ」 「はぁ?オレ様はそんな約束した覚えねーよ。おまえが勝手に決めた事だろ?それに人を待たせといて偉そうな事言うんじゃねーよ。オレ様の時間をオレ様がどう使おうがオレ様の勝手だろうが」 「そいつがおまえのやり方か。オレがミニ四駆で叩きのめしてやる!」 剛は持ってきたマックスTRFを突き出し、睨みを利かせる。 「!」 最初は小馬鹿にしていたようなノブオだったが、マックスTRFを目にした瞬間に顔色を変えた。 「(あれは最新型のスーパーXシャーシ!?ミニ四駆社関係者や一部の全国大会関係者しか持ってないはず。こんな素人がなんであのシャーシを!?)」 マックスTRFは一般的には未公開のシャーシとボディを併せ持つスペシャルマシンだ。 つまり、激レアである。 「(待てよ。これはチャンスだ。素人が最新型シャーシを持ってわざわざやられに来たんだからな)」 ノブオはニヤリと口元に笑みを浮かべ、拳を強く握りしめた。最高の獲物を発見した、といったところだろう。 「よし、それじゃお互いにマシンを賭けて勝負だ。オレ様が負けたらそのガキのディオスパーダは返してやる」 当然のように賭けレースを提案してきた。 「いや、それだけじゃねぇぜ」 「…何?」 しかし、剛の返答はノブオの予想を上回っていたのだ。 「おまえが負けたら今まで奪ってきたマシン、全部持ち主に返せ!」 なんとノブオに奪ったすべてのマシンを賭けるよう提案したのだ。 「(ごめんなおっちゃん。勝手にマシン賭けちまって。でもオレ絶対勝つから!絶対こいつはおっちゃんに返すからな!)」 「そ、そうだそうだ。剛君のマシンはあのスーパーXシャーシだぞ。みんなのマシン全部賭けてもらうだけの価値くらいある!」 「あ?部外者が口出しするのか」 「えっ。あっ、いゃっ、あの」 「兵平の言う通りだわ!あんた全部賭けなさいよ!」 援護のために口出しするも、萎縮する兵平をしり目に強気な優仁子。 そしてまっすぐな剛の目。だがもちろんノブオは屈しない。 「なんでオレ様はマシンを20台くらい賭けるのにそいつは1台なんだ。不公平だろ。いくらスーパーXシャーシのマシンでもな」 「何ィ…」 「どうしてもオレ様に今まで奪ったマシンを賭けて欲しいなら、今この場にいる全員のマシンを賭けろ」 周囲がざわつく。 「ざっと10人近くマシン持ってるやつがいるだろ。まぁ半数くらいだがスーパーXシャーシがあるしそれで納得してやる。だがこの条件を飲まないつまり1人でもマシンを出し渋ったなら賭けはおまえのマシンとディオスパーダだけって事にするからな」 ノブオには確信があった。自分の要求が通る確信が。 「(けけけバーカ。どうせこんな素人の勝ちに自分のマシンを賭けるバカはいねぇよ。オレ様のコレクション兼パーツを全部賭けろだと?アホめ。1人だって自分のマシンを差し出すヤツはいねぇんだからな、こっちはローリスクでスーパーXシャーシゲットだぜ)」 おそらく少なくとも全員が自分の大事なマシンを賭けるわけがない。そう考えていた。 ましてや剛は初心者。いくら使うマシンが最新型でも信用されるわけがない! 「あたしは出すわ。このスピンコブラを剛の勝ちに賭ける」 「優仁子!」 「ぼ、僕も。1回取られたけど…アスチュートを剛君に賭ける…(本当は嫌だけど優仁子さんがめちゃくちゃ睨んでくるし…)」 早速ふたりがマシンを賭ける。だが所詮身内の身びいき。 「…フン、たかが2人差し出したところで意味ねぇな。全員がマシンを差し出さない限りよ」 「くっ…。みんな、頼む…やらせてくれ!」 どうせ身びいきさえなければ誰も協力などするわけがない! 「…僕もマシンを出すよ」 ところが… 「…僕も!」 「オレもだ」 「この為にそんな最新シャーシ調達されたら僕達だって協力しないわけにはいかないよ」 ノブオの予想ははずれてしまっていた。
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