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「待たせたな」
「何やってやがったんだ。…てかおまえなんか目、うるうるしてねぇか?」
「気のせいだほっとけ!運の悪いやつだ、オレ様は今かなり虫の居所が悪いぜ。完膚なきまでに叩きのめしてやるからな」
ノブオは震えた手で携帯電話をピットボックスに置く。そしてマックスTRFに目を配った。
「!なるほど、さっきの間にチューンナップしやがったか」
「へっ!今更ビビっても遅いぜ!スイッチオン!」
カチッ!
…し〜ん…
「…え」
「剛君、電池は…」
「あっ!入れてねぇわ」
ずっこけるギャラリー達。
電池を入れ、仕切り直しだ。
「いくぜ!スイッチオン!」
カチッ!
…し〜ん…
「おい!ちゃんと電池入れただろ!?」
「おかしいな。でも轟さんがつくったから取り付けミスとかじゃないはずだけど」
「ちゃんと中身確認した?」
剛は慌ててボディをとる。よく見ると電池が片方プラスマイナス逆に入っていたのだった。
再びずっこけるギャラリー達。
「オレ達、本当にあいつに託して良かったのかな…」
「うーん…」
「パーツも貸しちゃったし、あとは見守るしかないよ…」
そんな様子を、ひとりの少年が黙って見ていた。どうやら来たばかりのようで1歩引いた場で眺めている。一見、女性と見間違うような美しい少年だ。髪も長く、サラサラした金髪である。
しかし手にはピットボックスを持っている。彼もミニ四駆レーサーらしい。
「おっ、君がこんなとこにいるとは」
そんな彼に声をかけたのは轟だった。剛の勝負を見に来たらしい。
「ご無沙汰しています、轟さん。彼が持っているのは最新のXシャーシですね。彼は見たところ初心者…つまり貴方が貸した、という事でしょうか?」
「鋭いね。さすが輪島君」
輪島。それが彼の苗字のようだ。
「彼がどうしてもあのノブオ君と勝負をしたいというから貸したのさ。何となく彼の目が気に入ってね」
「なるほど」
「…で、君ほどのレーサーがここに来たという事は君もミニ四駆狩りのノブオ君が目当てではないのかな?」
「ええ。彼の噂を聞き、退治するつもりで立ち寄りました。ですがどうやら出遅れたようです。はたして僕の出番はくるかどうか」
輪島はマックスブレイカーTRFをじっと見た。そして直後、剛に目をやり、口元に僅かな笑みを浮かべる。
「…いえ。僕の出番はなさそうだ」
ようやく準備が出来、剛とノブオは各々マシンのスイッチを入れる。どちらも激しいギヤの音を鳴り響かせた。
出しゃばりな優仁子が二人の前に出る。
「それじゃあたしが合図するわね!二人ともスタートラインにマシンを向けて!」
剛、ノブオはそれぞれマシンを自らのレーンのスタートラインに向けた。これをスタートの合図と同時に手を離せばレース開始となる。
「(この感じ、なんかゾクゾクするぜ…!なんたってはじめて走らせるんだからな)」
剛は気づかないうちに興奮の笑みを浮かべていた。
スタートが待ちきれなくなっているかのように。
「それじゃいくわよ!レディー…」
ドクン!
ドクン!!
ドクンッ!!!
「ゴーッ!!!!!」
二人は同時にマシンから手を離し、それぞれのマシンが力強く走り出した!
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